新生宮古の行く路

 
教師は授業で勝負する

数量化できない感性や知性を育む実践

宮川 時子

 子どもの学力低下が社会問題となり、特に数学・理科においてその傾向が指摘されている。平成x年4月には全国学力調査が小学校6年と中学校3年で実施され、その分析が全国的に行われる。しかし、数量化できない豊かな感性や知性をはぐくむ教育の有り様こそが深刻な問題だと思われてならない。先だって、宮古教育事務所主催の臨時的任用職員研修会において、「今、子どもたちに教えたいこと」という演題で講話がなされ、参加した本校の職員からその資料の提供があった。レジュメの中には、他者と共に支え合って生きるための人間関係性の喪失、関係性の歪みについて指摘があり、自己決定する経験の不足、自我の未発達や責任感の実感の欠如を招く適応的退行が示されていた。
 どの子にもゆきとどいた教育を、どの子にも基礎学力の保障を、どの子にも豊かな心を、と教育現場では研鑽の日々が続くが、人間関係づくりを基底に熱意溢れる授業づくりに邁進する先生方の姿勢には敬服するものがある。
 教師は授業で勝負する、これはかつて教師を本分とする者の合い言葉であった。多様化する価値観や教師に対する不信感が渦巻く中で、教師が元気を失い、この合い言葉がゆらぎつつある昨今ではあるが、宮古地区の中には優秀で情熱溢れる教師が多々いる。これまで、多くの先生方の授業を参観させていただく機会や共同研究等を通し、地道で根強い授業実践が、如実に子どもを成長させる様を観ることもできた。すぐれた授業には、教師の経験に裏打ちされた教材の選択があり、授業の工夫がある。
 現在、各幼・小・中学校では、子どもたちの実態や学校課題に即した組織的で実践的な校内研修が進められている。本校でも、先日「特別活動」の授業研究会が持たれ、学級目標や子どもたちの人間関係に着目し、学級課題にどう取り組むか、具体的な授業提案が行われた。共に支え合い高め合う集団をどうつくりだすか、子どもたちの気付きを個々の視点から集団の視点へと発展させる糸口となる授業であった。教師の学級づくりに対する溢れんばかりの思いと熱意、継続的できめ細かな子ども観察と記録から生み出された授業であり、まさに経験に裏打ちされた力強く発展性のある授業であった。 
 よく、すぐれた授業の条件として、「子どもの生活に結びついた楽しい授業の工夫」「学び自体のおもしろさを保障する授業の工夫」があげられるが、教科の実践においても、子どもたちの知的好奇心を揺さぶり、魅力ある授業を展開している先生方も数多くいらっしゃる。子どもたち一人一人に、わかる喜びや、成功への体験を味わわせるため、日々授業づくりに取り組む先生方を目の当たりにしたとき、教育に携わる一人の人間として純粋な感動を覚える。
 現在、教師に対する社会的な信頼が揺らぐなか、ややもすると学校批判や教師批判だけがクローズアップされがちだが、一人一人の教師の授業づくりへの思いや、児童生徒との対峙の日々に思いを巡らせ、その教育実践に真摯な目を向ける多くの人々がいることも事実である。その人々の温かい前向きな声援や支援に支えられ、教師力が生き生きと開花するばかりでなく、授業力がさらに磨きをかけられる。今日も又、多くの先生方が子ども一人一人の豊かな成長をめざし様々なアプローチで体当たりの授業を実践している。教師は授業で勝負するのである。
 宮川 時子(みやかわ・ときこ) 1950(昭和25)年4月15日生まれ。56歳。下地字川満出身。西表小・中学校、池間中学校、下地中学校、砂川中学校、平良中学校、西辺中学校教諭、宮古教育事務所指導主事、主任指導主事を経て現在、宮古島市立鏡原中学校長。
 

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