新生宮古の行く路

離島農業にのしかかる輸送コストのハンディ

長濱 哲夫

 宮古島に限らず沖縄県の離島における主要農産物は今なお、サトウキビ、肉用牛、葉タバコである。復帰後、沖縄県には農業振興のための各種施策が実施されてきた。その中で、高収益経営の定着を期待して、野菜、花き等の生産振興策も積極的に実施され、そのために多額の補助金が投入された。しかしながら園芸作物の生産振興に投入された金額に対して、残念ながらその生産額の伸びは小さいと言わざるを得ない。
この要因としては、輸入農産物の増加等による相対的な競争力低下もあるが、島内での消費量には限界があり、生産された園芸農産物の大半は沖縄本島および県外市場に出荷しなければならないことから、そのための航空輸送コストの負担が農業所得の低下を招き、さらには産地として継続していくことを困難にしていることが挙げられる。輸送コストの割合は販売価格によって変わることから一概には言えないが、ゴーヤーを航空輸送した場合を例に挙げると、おおむね販売金額の三〇%相当が輸送コストである。これに加えて、肥料・農薬代、機械・施設の減価償却費、箱代や市場の手数料等の経営費が差し引かれ、残った金額がようやく農家の所得となる。実例として、家族二名で農業に従事し、一千万円の売り上げを上げている比較的優良なゴーヤー生産農家の売り上げからもろもろの経営費を差し引いた所得は四百万円程度であった。この農家の場合、売り上げから所得を引いた経営費が六百万円、そのうちの三百万円が航空輸送運賃ということになり、実に経営費の五〇%が輸送コストということになる。航空輸送よりも廉価な輸送手段として船舶輸送があるが、カボチャ、トウガンを除けば鮮度保持の関係から船舶輸送は難しく、航空輸送に頼らざるを得ないのが実情である。冒頭に列記した三品目が何故離島においては主要品目であり続けるのか。台風時のリスク、経営の安定性等を考慮した場合に、園芸品目よりも今なお有利であるからにほかならない。
 航空輸送コストが宮古の園芸品目振興の障害となっていることは明らかであり、離島農業振興のためには具体的な輸送コスト低減方策が求められる。物流サービスに限らず、一般的に大口需要者へは割引料金やポイント制による還元が行われている。現に航空輸送業界においても旅客については搭乗距離数に応じた多様な利用者還元を実施している。一農家で数百万円の航空貨物運賃を支払っている農家に対しては運賃支払高に応じた還元があって当然であると考える。大口需要者への還元と同時に、離島の農業、農家を支援するという意味で、社会的使命を有する航空輸送業界には前向きに検討してもらいたいところである。
 しかし、離島農業の振興は航空輸送コストの低減だけで図られるものではなく、各種行政施策の後押しが不可欠であることは言うまでもないことである。国の三位一体改革による地方自治体の財政悪化に対する懸念や、国の農政の抜本的な見直しなど厳しい状況は十分認識しつつも、農・漁業への新規参入者に対する助成策や、零細規模農家に対する支援措置は今後とも離島である宮古島市・多良間村の活性化には必要不可欠であると考える。行政当局においては今後とも農業基盤を強化するとともに農業の持つ多面的な機能を維持していくためにも予算措置をはじめとして特段の配慮を期待するものである。
 輸送コストの負担をはじめとして、離島農業振興のためには避けて通れない課題が横たわっているが、農家と関係機関が一体となって一つずつ克服し、「夢のある農業」「活力ある宮古郡」にしていきたいものである。

 長濱 哲夫(ながはま・てつお)1953(昭和28)年11月30日生まれ。52歳。宮古高校卒業後、75年に平良市農業協同組合に入組。JA宮古郡企画管理部長、JAおきなわ農業経営対策室長を経て、2004年8月、JAおきなわ宮古地区事業本部副本部長。

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