新生宮古の行く路

 
地域で育てる意識の共有を

子らの夢 脈打つ社会こそ健全

宮川 時子

 職業選択をめぐる急激な環境の変化や社会の成熟化、生活環境の変化により、若年者の失業率が増加し、フリーター思考の若者やニートの増加が問題視される昨今、キャリア教育の波が学校現場に押し寄せている。現行の格差社会を、若者の職業観や教育の甘さとして指摘し、政治や社会の責任を免れようとする風潮も見られるなかで、何かしらしっくりこないものがある。
 しかし、日本におけるニートの規模に関する数値として、内閣府が2005年7月に出した『青少年の就労に関する研究調査』では、非希望型のニート(就職の意志を表明していない者)と非求職型のニート(就職の意志はあるものの、何らかの事情によって、一時的に求職に向けた活動を中断している者)を合わせて約84万人が挙げられているなかで、教育に課せられた責務や期待には多大なものがある。 
 ところで、宮古島市教育委員会は、本年度より市全体をキャリア教育推進地域に指定し、学校や地域が具体的に相互の連携を図るなかで、地域が一体となって子どもを育てていこうとする気運の高揚をめざしている。
 本校もその推進校の1校として、将来、社会人、職業人として自立した人材をはぐくむ取り組みの一環として、5日間の職場体験学習を教育課程に位置づけている。
 総合的な学習の時間に「共に支え高めあう社会づくり」という単元設定のもと、1学年で「自己理解=働く人々、職業調べ」、2学年で「好ましい生き方の自覚=職場体験学習」、3学年では「進路計画の具体化=進路選択に備えて」を学年テーマに、個々の生徒が将来の生き方を模索し、その夢や希望をはぐくむ取り組みを計画的に行っている。
 先達て、1・2学年を対象に職業講話の時間を設定した。地域の方や保護者の皆さんを招聘し、子どもたちの勤労観の育成や、学ぶこと、働くことの素晴らしさを体感させたいという本校職員の思いが実り、宮古島市消防本部の川満等さん、美容室を経営している奥浜京子さん、JA職員の友利政則さんをお招きしそれぞれの職業への思いを語っていただいた。日頃から顔見知りの身近な方々の職業に対する深い思い、働く姿勢、そして後輩である自分たちへの熱いメッセージに、子どもたちは、学校が意図したねらいを達成できたばかりか、地域の方々に対する愛着や誇りを持つことができたと確信している。
 学校ではさまざまな教育活動の場で、社会体験学習に係る啓発、広報活動を行っているが、生徒個々のニーズに対応した参加・協力事業所をどう開発していくかが大きな課題として横たわっている。推進協議会を通した行動連携が求められるなか、先進地域として嘉手納町や西原町では自治会・婦人会・青年会議所等の団体で推進協議会を組織し、大きな成果をあげている。この活動には「地域をあげて教育する」というねらいがあり、子どもたちの自己効力感、勤労観、社会的協調、家族のきずなの深まりに確かな効果が認められるとする研究発表もなされている。
 キャリア教育推進地域として始動しだした本市において、地域の子は地域で育てるという意識の高揚や共有化をどう図るかが大いに期待されるところである。
 子どもたちの夢や希望が生き生きと脈打ち息づく社会こそが健全な社会である。地域の思いや活力が本気で子どもに注がれたとき、その「教育力の向上」や「意識の向上」ということばが絵空事ではなく現実味を持つことになる。
 宮川 時子(みやかわ・ときこ) 1950(昭和25)年4月15日生まれ。56歳。下地字川満出身。西表小・中学校、池間中学校、下地中学校、砂川中学校、平良中学校、西辺中学校教諭、宮古教育事務所指導主事、主任指導主事を経て現在、宮古島市立鏡原中学校長。
 

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