聴く人ありて、語るは楽し

―聴く力を養い、心豊かな人間関係を築きましょう―

                 垣花 鷹志 (かきのはな たかし)
 


07/03/02掲載

 今、三月、進学の時期、晴れて卒業を迎えた若い方々にとっては就職の時期、新しい旅立ちの季節です。中でも、初めて小学校という、手の届かない他人の集団の中に子どもを送り出す時の親の不安は、格別なものがあるでしょうね。思春期のことを心理学では「疾風怒濤の時期」と言いますが、中学校はその嵐の中への旅立ちです。この荒波を親子してどう乗り越えて行くか、これもまた悩みの種ですね。人生という旅には不安、悩みはつきものですが、備えあれば憂いなしです。それでは、何をどう備えたらウムヤスーウムヤスして(心安らかに)旅立つこと、旅立たせることができるのでしょうか。人生という旅は体力だけではありません。人間は家族という集団の中で生まれ、長じては社会という他人が織り成す集団の中で生きて行く「社会的動物」(アリストテレス)です。人間とは書いて字の通り、人と人との間に生きて行く生き物です。人という字は、人間が立っている姿を描いたものですが、支えあっている姿にも見えます。つまり、人生は人と人との関わりあいの旅路です。この人生という旅路に携えて行く杖は「人間関係」です。今、お父さん、お母さんにとって一番気になるいじめもつきつめれば人間関係です。いじめる側だけをとっちめて通学停止にしたからと言って解決のつく問題ではありません。「子育ちは親育ち」とも言います。子どもが荒波の中で溺れそうになった時、色んなサインを出します。中でも思春期の時のサインは複雑ですが、それを見落とさずにきちんと見届けることができるかどうか、その鍵を握っているのは親子の人間関係というパイプがスムーズに流れているかどうかです。晴れる日あれば曇る日あり、時には嵐吹く日もある夫婦という旅路を最後まで歩ききれるかどうか…、これも二人の心の通い合い、同行二人と支えあえる人間関係を築けるかどうかです。
 それでは、その杖を備えるにはどうしたらいいのでしょうか。私がこれまで学んできたカウンセリングをもとに良寛さんの話の戒語(言葉遣いの戒め)なども織り交ぜて申し上げてみたいと思います。

― カウンセリングマインドと人間関係
 結論を先に申し上げます。そのためには、相手の話によく耳を傾け、よく聴くことです。聖書に「愛はすべてを結ぶ帯である」(コロサイ人への手紙第三章十四節)ということばがあります。そう、私たちが生きて行く上で月影のようについて離れない人間関係を豊かにもし、暖かなものにしてくれるのは愛です。それ故私たちは愛を求めて生きて行きます。それは分かりました。それではどうしたら人を愛することができるのでしょう。私は若い頃から頭を叩き、胸を打って悩んできました。最近になってようやく分かりました。「愛するとは相手の話を大切に聴くこと」です。聖書の「ヨハネによる福音書」は「はじめにことばあり。ことばは神と共にあり」ということばで始まっています。ことばを話せるのは人間だけです。人間が神様からいただいた一番のプレゼントかもしれません。人間は、人と人との間に生きる者、人と関わりあいながら生きる者と申し上げましたが、その関わり合いの架け橋はことばです。この橋をどう渡るか、人間関係をよくするのも、悪くするのも、私は、ことばだと思います。どういうことば使いをすればいいでしょうか。私は逆にことばを使わないことだと思います。話す方にではなく、相手の話を聴く方にいつも気持ちを持って行くこと、つまり聴く力を身につけることの方が人間関係を良くするのにプラスになると思います。聖書には「聴くに早く、語るに遅くありなさい」(ヤコブの手紙第一章十九節)ということばも出てきます。神様が人間に口一つ、耳二つを与えた所以(ゆえん)です。皆様方は日頃の会話を振り返ってみていかがでしょうか。どんな時に「ああ、また会いたいなあ」「一緒にいて楽しかったなあ」とお思いでしょうか。いい話を聞いた時でしょうか。私は自分の話をちゅうじゅく(心の耳を傾けて)聴いてもらい、自分の気持ちを分かってもらえたなあ…と思う時だと思いますがいかがでしょうか。

二 人間にとって一番の心の願い
 その前にまず私たちが誰でも持っている願いとは何でしょうか、そのことについて知っておく必要があります。それは次の四つです。
(1)自分のことは自分で決めたい。自分の人生は自分で生きていきたい。
(2)でも人は一人では生きていけない。
(3)誰かに自分の本当の気持ちを分かって欲しい。
(4)あるがままの自分でありたい。あるがままの自分をそのまま受け容れて欲しい。

 人間関係を良くしようと思ったら、相手の心にあるこの四つの願いを頭においてつきあっていくことです。
(全日本カウンセリング協議会認定カウンセラー)

 垣花 鷹志(かきはな・たかし)1941年宮古島市生まれ。早稲田大学院法学研究科修士課程修了。那覇保護観察所長等を経て現在、琉球大学法文学部非常勤講師。エッセー集に「かたぶり」「忍冬」。第二回平良好児賞受賞。

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