ぺん遊ぺん楽


環境保全条例

清水 早子
(しみず はやこ)


<2007年02/16掲載>

 大阪の南玄関と呼ばれる天王寺界隈に「天王寺公園」がある。古くからの公園でかつては大きな木陰にベンチがあり、噴水、公会堂、植物園、小高い丘や池もあった。「ひょうたん池」と呼ばれ、私は子どもの頃よく牛乳ビンをその池に沈めてエビやタニシを採った。今は亡き母とゴザを持って出かけ、池のほとりの木陰で幼い私と弟は昼寝したものだった。漫画「ジャリン子チエ」にも登場する公園だ。都会のど真ん中の数少ない土と緑の安らぎの公園だったのに、1990年大阪市は高い柵で囲み、大きな樹を切り、コンクリートとアスファルトで舗装し有料の公園にしてしまった。市民の反対運動と数万の署名にもかかわらず。家を持たない野宿労働者を排除し、だれもが自由に散策できる心の安らぎを奪い、アイランドヒート現象で温暖化に拍車をかけ、騒音の減衰効果を失い、環境保全効果の悪化を招くというオマケまで付いた最悪の公園にしてしまった。
 コンクリートジャングルの大阪へ久しぶりに出かけ、宮古へ戻ると私はホッとする。土と緑(森と呼ばれるモノは減少しているが)と吹き抜ける風がある。波の打ち寄せる浜がある。と思いきや、久松の通称パラダイス道路(下地への海岸線)で工事中の浜の掘削や埋立ては何事だろう。「赤土流出防止」のためと看板にあるが、側溝や排水溝などの道路整備事業などの他の方法で対策を考えられないのだろうか。どうして減少する天然の海岸線をあんなに深く掘り返し石を埋立て、海中生物に影響を与え、自然な木と浜の景観(これが何より人々を慰めるのに)をぶち壊してしまうのだろうか。
 しつこく久松に言及するなら、歴史と文化の伝統である「瓦家」が年々減少していく。宮古の文化遺産と言ってもいいこの赤瓦の家並みは、保全の方途(ほうと)を考えなければこのままでは失われていく。保全し、文化財法の特別保護建造物や景観重要建造物の認定を目指すという手もある。減っていくモノといえば、ヤシガニ(マクガン)もそうだ。現在、県で「稀少野生動植物保護条例」が審議中で、2009年4月施行を予定している。絶滅が危惧(きぐ)される野生生物で県のレッドデータブックに入っているヤシガニを十年くらい前は久松の夜道でも見かけたものだが、昨今すっかり見かけない。観光客で珍品を好む面々が食するようだが、止めていただきたい。法的な規制以前に良識の範疇(はんちゅう)で、絶滅に瀕(ひん)する野生生物を食用に提供するのは差し控えた方が良い。ウミガメもそうだ。
 減少するモノと反対に増加するモノもある。島内の電柱だ。さらに久松にこだわれば、1998年海岸線に出現した電柱をめぐって私は「景観論議」したことがある。当時、私は「景観は空気や水や日照などに加え生存にかかわる環境権として日本でも1970年代以降、心身ともに健康で人間らしい生活ができる環境を求める基本的人権の一つである社会権の中に主張されている」と述べ、電線の地中化を提案した。2003年の台風14号で多くの電柱が倒れ、安全面からの電線地中化が課題となり宮古でもやっとこの1月末、地中化が県の事業として始まった。が、なぜか拡幅後の広い道路から始まっており、その目的の一つに「都市景観の向上」とある。安全面から言えば、広い道路より住宅密集地の電柱が優先されるべきである。また、宮古は「海岸線の景観」こそがアピールポイントなのだから「都市景観の向上」より「海岸線の景観の向上」こそ優先されるべきではないだろうか。
 最近読んだ本の中にシックハウス症候群、化学物質過敏症の話があった。建材や壁紙やその接着剤や塗料の他、建物の下の土壌の汚染に起因する喘息、皮膚炎、貧血その他深刻な身体症状の話であった。地下水が命の水である宮古でも土壌の汚染は重大である。私たちが毎日垂れ流す生活排水はもとより、多くの化学物質・薬剤・化学洗浄剤を使用する企業や商店の排水の実態はどうなのだろうか。地中や海洋の汚染と同様に私たちに分かりにくい環境汚染の一つに「電磁波」がある。もちろん家庭内のテレビ、電子レンジ、パソコンなどの家電品や携帯電話も「電磁波」を出しているのだが、テレビや携帯電話の中継アンテナが授受している電磁波は強力だ。これほど普及した携帯電話社会の中では、経済的な思惑の中で「電磁波障害」に触れることはタブー視すらされていて、数十年後その被害の実態が科学的検証と共に社会の表層に現れるまで議論できないのだろうか。
 「環境保全条例」と打ち込んで検索すると、全国県市町村の条例など万単位の情報が画面に現れる。地域により特性があり、とても興味深い。「飼い犬の糞害防止」「放置車両の措置」から「地球温暖化防止」のための「アイドリングストップ」「景観保全」「日照・電磁障害」まで多岐にわたる。秋田県横手市の環境保全項目はとても分かりやすい。@自然環境(生物、地形、地質)A文化歴史環境(文化財、遺跡、歴史的町並み)B社会生活環境(清潔さ、景観・町並み。土地利用形態)C公害(大気汚染、騒音、水質汚濁、事業系廃棄物ほか)D生活阻害(日照、電磁障害、廃棄物、夜間照明)である。沖縄県にも環境保全法規集に多くの条例や規定があり、宮古でも旧平良市当時の立派な「環境保全行動計画」がある。現在、宮古島市の「環境を考える市民委員会」でゴミ問題や八重干瀬をはじめとするサンゴの保全の問題の他に、「環境保全条例」の制定に向けて協議が始まっている。宮古島に必要な「環境保全項目」は何か、「行政の責務」「市民の責務」「事業者の責務」は何か、保全を遂行維持するのに必要なシステムと活動は何かなどを、何より市民自身の目線と手で創りあげていくことが大切だと思う。

(宮古ペンクラブ会員・自由自在空間久松館)


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