ぺん遊ぺん楽



ジョガーの目を通して

下地 昭五郎
(しもじ しょうごろう)


<2006年02/02掲載>

 昨秋から夕方のジョギングを早朝のそれに切り替えた。夕陽を浴びながらジョグるのもいいが、それは夏場に限る。やはり、秋口からは日の出前から朝日が昇りかける頃、コースから眺める景色を堪能するのもよい。冷気を肌で感じながら朝靄の中を駆け抜けるのは実に気分爽快だ。両脇には芒の穂が風に揺れ、遠方では甘蔗の穂波が豊穣の世界へ誘う。
 毎週、基本的には10キロを隔日にジョグることにしている。その日の気分にもよるが、体調と相談して走ることにしている。1キロほど行くと体中が汗ばんでくる。帰る頃は腕から飛び散る汗が朝日に輝く。堪らなく心地好い。帰宅して、シャワーを浴び、一杯のコーヒーを啜りながら新聞に目を通す。快適な一日の始まりである。
 スタート直前、隣のお嬢さんが、殆ど毎朝、洗車する風景がある。彼女は自分の愛車と両親の車を健気に磨いている。彼女の元気なおはようございます!≠ニいう挨拶に気分よくして軽快なスタートを切る。暫く行くと、道路の両脇の樹木の下の空き缶や塵を片付けるN先生の姿が在る。先生は定期的にボランティア活動を続けておられる。その樹木の剪定をなさることもしばしばである。頭が下がる。
 3百メートルほど走ると、齢80前後の女性とほとんど毎朝すれ違う。杖を支えて歩いておられる。立ち話によると、過日、交通事故に遭われ、体が不自由になり、リハビリのため朝の散歩を心掛けている由。この方との挨拶も日課になった。
 次は、元気な女性のグループだ。朝のラジオ体操を終えて、グループで往復2キロほどのウオーキングを楽しんでいる。たまに立ち止まって談笑にあずかることがあるが、パワーを感じる。文句なしに清々しい。走る足取りも軽く感じる。
 ブックボックス店辺りに差し掛かる頃、愛犬の散歩を日課とする女性がいる。とても清楚な感じの方である。挨拶のときの笑顔がいい。また、愛犬の調教に余念のない若き男性との挨拶も楽しみ。それから、初老と思しき方との出会い。常に笑顔で、しかも、ご丁寧に脱帽されての挨拶には恐縮してしまう。最初、私は着帽のまま手を上げて挨拶していたが、最近は礼を失しないよう脱帽して挨拶することにしている。
 それから、4キロほど走ると空港通りのカラー舗装の歩道に至る。南北へ走るこの3キロのコースは早朝ジョギングの最も快適な直線である。空港ゲート付近では清掃服姿の二人の女性に会う。ある日、空港駐車場の外周をジョグると、その女性たちがタクシーの待機する構内の一角を清掃する姿が目に映った。ジョギングで流す私の汗とボランティアで流すお二人のそれとに言い知れぬ違和感を抱きながら本来のコースへ急ぐ。この狭い島のあちこちで目にする地味なボランティア活動は本来の「観光」の環境づくりに貢献しているように思えてならない。
 帰宅して、玄関でストレッチに入る頃、「おはようございます!」と新聞配達の少年の元気な声。「ごくろうさま!」といってその少年の後ろ姿に視線をやりながら、いつも新しいニュースを届けてくれるその少年に感謝の気持ちを抱く。
 わずか10キロの間に、多くの人々が早朝からボランティアをしたり、思い思いの過ごし方をしている光景に遭い、心を洗われる。こうした元気で心の美しい人々にあえるのも早朝ジョギングの楽しみの一つである。

 (宮古ペンクラブ会員)


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