ぺん遊ぺん楽



くれよん

梶原 健次
(かじわら けんじ)


<2005年07/27掲載>

 沖縄の人の意識にサンゴ礁のことなんてほとんど意識にのぼってくることなんてありませんよ、とある年配のサンゴ礁研究者は私に話しました。その方は沖縄本島出身なので、テキトウなことを言っているのではないことは確かなのですが、にわかには信じられない、信じたくないことでした。
 言うまでもなく沖縄はサンゴ礁に囲まれた島々で、ニライカナイ信仰、浜下り(サニツ)、海神祭(ハーリー祭)などサンゴ礁に根ざした文化があります。テレビCMや紙媒体の広告でもサンゴ礁は頻繁に出てきます。「青い海と白い砂浜」「サンゴ礁の楽園」。観光はもちろん、芸能、食品、酒、化粧品、はては建築業まで幅広い分野で美しいサンゴ礁のイメージは重宝されています。サンゴ礁のイメージは様々なメディアからあふれ出ているはずなのです。
 一方、そのサンゴ礁は本当に美しいのでしょうか。サンゴは一匹、二匹とは数えられません。真上から海底を見たときに、海底面に占めるサンゴの面積の割合を被度または被覆度といいますが、ある調査によると、沖縄本島沿岸でサンゴの被度が二五%以上になる場所はないそうです。調査された場所の多くが一〇%未満でサンゴの量は極めて少ないと評価されます。沿岸全域がくまなく調査されたわけではないので、局所的な例外はあるかもしれませんが、本島全体の概況を一言で言えば「沖縄にはもうサンゴはない」という事になります。
 にもかかわらず、これだけサンゴ礁がメディアから溢れているということは、サンゴ礁のイメージと現実の違いについて認識していながら「こうだったらいいのにな」という期待でイメージを利用していたか、あるいは現実を何も知らないだけなのか…おそらく後者でしょう。(言葉が大変悪くて、気に障る方がいるのではと恐縮するのですが)幼稚園児がクレヨンで描いたサンゴ礁の絵「青い海と白い砂浜」というイメージ以外に何も知らないし、気にもならないのが平均的な意識なのかも知れません。
 近年沖縄の文化を見直す動きが定着し、地域ごとの方言や伝統行事、芸能を後世に引き継ごうとしています。しかし伝統の魂は、それ単体で伝承できるでしょうか。海の神に祈りをささげる時に、荒廃しきって何の恵も与えられなくなったサンゴ礁に、後世の人々が感謝や畏敬の念を抱くでしょうか。その文化を育んだ自然環境も一緒に遺さなければ、伝統の魂は意識にのぼることなく、遺される形骸化された幼稚な絵だけでしょう。
 幸いなことに宮古周辺ではサンゴの被度が五〇%を越える場所が多く見られます。サンゴの量が決して多くなくても、種の多様性において特筆すべき場所もあります。そして、少なくとも私の個人的な印象では、沖縄本島に比べて宮古の人々はサンゴ礁に接する機会も多いし、意識の上にサンゴ礁がのぼってくることはしばしばあるはずです。しかし今後はどうなるかわかりません。さて私たちはどんな絵を描き遺せるでしょうか。

 (宮古ペンクラブ会員・公務員)

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