ぺん遊ぺん楽


   「遊び」の原理


下地 康嗣
(しもじ やすし)


<2005年06/15掲載>
 歌手の加藤登紀子氏が以前に言っていたが、夫婦の仲はイオン化状態がいいと。その趣意は忘れたが、私なりの話にしたい。イオンとは原子などが電気を帯びた状態をいう。イオン化した原子は活発に動く。イオンは「行く」というギリシャ語に由来する言葉だが、陽イオンが陰極へ、陰イオンが陽極に移動するとき電気の流れが生じる。
 その陽イオンと陰イオンが結合するとエネルギー的に安定した化合物となる。イオンは活発に動き回るといっても、電気的引力によってお互いに拘束されている。夫婦の関係は化合物のようにガッチリとした膠(こう)着状態よりも、イオンのような状態がいいということである。車のハンドルやブレーキにも「遊び」があるが、この「遊び」を指しているのだ。
 共通の趣味というのもよいが、それぞれの趣味を通して理解しあえるようになるのが最もいいのではないかと、最近特に思うようになった。趣味が高じてライフワークになるということもあるが、「趣味」=「遊び」のほうが健康的である。「遊び」は心身をリフレッシュするからである。

 話が変わるが、かつて教員仲間でテスト問題を印刷するのに生徒数キッチリに印刷する方がいた。正確を期すということだと思うが、私などは1クラスにつき2、3枚の予備をもったものである。ルーズといえばルーズだが、先ずテスト監督用に1枚は必要で、それは生徒の問題用紙に印刷不明瞭な部分があるときなどへの対応であり、また全くの印刷ミスで不鮮明なものが出て取り替えなければならないこともあるからである。
 試験を受ける生徒数より多く印刷するという「無駄」は、資源を大切にとか、省エネが叫ばれる今の時代には、不道徳とさえいえよう。だが、この方が問題用紙の不足など非常事態に即応でき、混乱を未然に防ぐことができるからである。
 前述のハンドルの「遊び」の原理と同じで、この無駄は必要欠くべからざるものであると捉えたい。

 最近「小児慢性疲労症候群」という聞きなれない奇病についてのNHK報道を見た。体がだるくなり、なにもやる気がしないという。児童生徒に慢性的疲労が蓄積するということさえ不思議だが、まじめな子どもほど罹(かか)りやすく、何事にも一生懸命で、結局脳が疲れはてることから起こる病気のようである。最近の子どもたちはテレビゲームなどに熱中するが、これも脳を休めるどころか、逆に酷使しているともいわれる。遊びでありながら「遊び」がないということか。子らを取り巻く環境に起因しており、脳を休める「遊び」を作り出してやらねばならないという、なんとも不自然な世の中だ。週休2日制で、「ゆとり教育」の中で起こっていることも皮肉である。
 かつては、さまざまな遊びの中で体を鍛え、スポーツ技能を養い、先輩、後輩との絆を培い、生きる知恵を自然に体得していったものが、もはや、今は昔の話となったようだ。

  (宮古ペンクラブ会員・元校長)

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