ぺん遊ぺん楽


木の実と見れば

松谷 初美
(まつたに はつみ)


<2005年06/11掲載>
 うちの近くに、杏並木がある。
 春には、ピンクのきれいな花を一斉に咲かせ、6月ごろ、桃の実によく似た黄色い実をつける。先月まで緑色をしていた実がだんだん黄色味がかってきたので、もう少しで採れそうだ。

 子どもの頃、木の実がおやつ代わりだったせいか、木に実がなっているのを見ると、とぅらだからーうらいん(採らずにはいられない)!
 この杏の木は、6〜7年前、道路拡張が行われた際、街路樹として植えられた。この辺りではあまり見かけない木で、周りの人たちは実がなるとは思わなかったようだ。最初に杏の実がなったとき、息子と一緒に虫取り網と竿を持っていき、たくさん採った。東京でこんなことができるとは思っていなかったので、楽しくて仕方なかった。通りすがりの人たちは「何をやっているんだ?」と不思議そうに眺めていて ぴっちゃがま(少し)どうぐりだったけど(恥ずかしかったけど)、実が取れる喜びには代えられないさーね。

 子どもの頃は、ポーやざうかに、野いちご、バンチキロー、バン 。キ(桑の実)など、いろいろな木の実を食べてきた。バンチキローの木は、どこの山にあるか、バン 。キのすぅだりる(たわわに実る)木は、どの木だとか知っていて、い 。すんかい あか 。すんかい(西に東に)かけずり回っていた。ポーの実を噛んだ感触、バンチキローの皮がうす黄色になった時の芳醇な匂い。ざうかにの甘酸っぱさと舌に残るギザギザの種など、今でも忘れられない。
 その中でも、野いちごは特別に好きで、アルマイトの弁当箱を持って、よく採りにでかけた。家の近くにある松林の西側に、うねった赤土の畑があり、時季になると野いちごがたくさんできた。畑一面、うす緑の葉が茂る中に赤い野いちごがたくさん実っている様は、夢を見ているようでもあった。形をくずさないように採って、少し眺めてから、口の中に入れる。ひとつぶひとつぶが口の中ではじけ、酸味と甘みが広がっていく。つぶつぶに細い黒い毛がちょこっとついているのもあったっけ。頬ばりながら弁当箱にも入れ、時の過ぎるのも忘れるくらい摘み取るのに没頭したものだった。

 時々、おじいも草刈にいったついでに、いちごを摘んできてくれることがあった。葉ごと刈って草でしばって、持って帰ってきた。朝露にぬれたいちごは、きれいな花束のようだった。
 いちごの時季に帰省していないせいもあって、ここ10数年、野いちごを見たことも、食べたこともない。「あっても、農薬を使っている畑が多いから食べられないはずよー」と母ちゃんは言う。悲しい。いつか、大きくなったら(年をとったらが正しい)、宮古に帰って、見渡す限りいちご畑を作ることを夢見ている。
 さぁ、杏もそろそろ採り時を迎える。網と竿を準備しないとね〜。

  (宮古ペンクラブ会員・みゃーくふつメールマガジン主宰)

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