ぺん遊ぺん楽



相手のために時間を費やす


垣花 鷹志
(かきのはな たかし)


<2005年03/12掲載>

  愛するということは相手のために時間を費やすことである
                        サンテグジュペリ 「星 の王子様」

 野原を虫捕り網で駆けている父と子の姿を見るとき、銭湯で背中を流し合っている父と息子の姿を見るとき、なぜか熱いものがこみあげてくる。
 子育てとは戦(いくさ)のようなものである。中でも第二次反抗期と重なり合う思春期は試練の時である。思春期のことを心理学では疾風怒濤の時期という。この時期になると性腺ホルモンが動き出すのをハガマの蓋のように抑えている胸腺ホルモンが後退して行く。男の子は精通、女の子は初潮といった第二次性徴が現れる。春を思う季節の訪れである。異性への関心が高まりこれと共に自我意識が芽生え始める。他人の目が色々と気になりやたらと腹が立つ。疾風怒濤のように心が揺れる。親たちが一番うどぅいうどぅい(ビクビク)しているのは非行という名の大型台風である。少年の非行の5割近くはこの時期の子どもに集中している。(平成14年、沖縄における犯罪少年の中学生の割合は46・6%。これに12、13歳の触法少年を加えると57・9%)。

 この非行台風から子どもを守るにはどうしたらいいか。トラボース・ハーシというアメリカの社会学者が子どもを非行から守る手立てとして「社会的絆(きずな)の理論」というのを唱えている。この中にアタッチメントというのがある。平たく言うと危ない時に親の顔が浮かぶかどうかである。親が悲しむ、そういう気持ちが子どもを非行に走るのを踏み止どまらせる。だから親と子の絆を太くしておくことが大事だと言う。

 子育ては、子どもにとって親が世界の全てである幼児期・学童期が勝負ではないかと思う。第一次反抗期の対応をしっかりしておくことも然りだが、この時期に親と子との間にしっかりとした絆を作り上げておくことである。そのためには、子どものために沢山時間を費やしてあげることである。子どもとの間に思い出の袋を一杯にしておくことである。

 総務庁府青少年対策本部が平成6年から7年にかけて行った「子どもに関する国際比較」によると「子どもと一緒に過ごした時間がほとんどない」親がアメリカ0・8%、韓国の5・7%に対して日本は10・7%と最も多くなっている。一番大事な学童期にたったの15分という親が28・9%にも上っている。

 子どもの頃私の家は茅葺き家(ヤー)だった。台風の話を聞くと家族じゅうで家ごと縄で括った。それを怠ると翌朝には屋根は鬘(かつら)が吹き飛ばされた禿頭のようになり、目の上は青空だった。

 非行台風に吹き飛ばされないためには子どもが小さいうちに沢山時間を費やしておくことである。絆を太くして備えておくことである。


   (宮古ペンクラブ会員・琉球大学非常勤講師)

top.gif (811 バイト)