ぺん遊ぺん楽

 
この子らと共に
 筋書きのないドラマ みんな大きな○

玉元 江美子
(たまもと えみこ)


<2005年03/02掲載>
 今日は学習発表会、小・中・高総勢42名の役者たちの晴れ舞台の日である。練習に次ぐ練習で準備は万端(ばんたん)のはずだが、気は抜けない。なにせ当劇団の役者たちは、その日の気分次第で名優にも迷優にもなれる変幻自在の個性派。

 今朝の職員室、背筋をぴんと伸ばしたくなるさわやかな緊張感が漂う。
 「成功を期して、お手を拝借、ヨー!」校長の合図で一本締めの唱和。職員(校長?)のテンションは朝から上昇気流で気合いが入る。
 「おじーも、おばーも、みんなも来るって」「とってもガンバルよ」スクールバスを降りるなり、「おはよう」も忘れ、我先に報告する子どもたち。今朝は「特別の日」だから、一張羅(いっちょうら)のおしゃれ着。ワクワクが伝わる。

 体育館には来賓、家族、親戚、卒業生等42名の在籍に200余名の大応援団が開演を待つ。あの手この手で子どもたちを叱咤激励しながら出番を待つ舞台裏の喧騒。担任の緊張。我が子の出番を待つ親の心境は如何に。

 本番! 小学部全員による表現遊び「パニパニ動物たちの演奏会」の幕が上がる。
 小学部で一番のしっかり者T君が、笑顔満面スキップで登場。司会進行の大役で台詞(せりふ)もシナリオどおりOKだ。自力で三輪車に乗れるようになったU君がマイカー(三輪車)で。縄跳び得意はフロアを1周して舞台に。夏休みまで抱っこされていた1年生のH子が、なんと! 自分で車椅子を操作して舞台に。練習や訓練で流した汗や涙はもう過去のもの。役者たちの登場の仕方は三人三様。自信たっぷりでかっこいい。

 集団が苦手なK君、T君がみんなと一緒に舞台に立ち「はらぺこ青虫」を熱演。順序やパターンを守る彼のこだわりが役にマッチしている。U子は一音一音をつなぎ、懸命にことばを紡ぐ。世話好きなS子、自分のことはさておき、あれこれと指示しステージを仕切る。その仕草が担任にそっくりで愉快だ。本の好きなT子は宮沢賢治「雨にも負けず風にも負けず」の長い詩を一字一句違わずに覚え、堂々の舞台発表。先生の厳しさにも負けぬ努力の人。掃除が上手になったS子は本番でステージの拭き掃除。いいお嫁さんになる夢に一歩近づいた。K君の出番。一人でトランポリンにヨイショ! とよじ登れるか。必死にガンバルK君のか細い体が左右に揺れる。それを見てすかさずかけ寄り手を貸すT君。友情に拍手。絵の得意なH君は全国レベルの絵画展入賞の誉れあり。面前の舞台でアドリブの実力発揮の予定。日頃はボーチラなのに人前にでると固まり別人になる。果たして、プレッシャーに勝てるか? 止まった絵筆に会場の視線が集まる……。

 そうして、一人一人の出番があり、最後に、全員による「演奏会」が始まった。誰が生徒か先生か、先生方も総出のオーケストラ。
 手作り楽器、奏法、自作の歌詞、衣装、背景画、照明BGMと演出の工夫が光る。一人一人に注がれる熱い視線の中で子供達のパニパニ演奏会が始まった。大小様々な声で、表情や身振りで、緊張の沈黙で、それぞれの表現手段を駆使した素敵な演奏。子等の奏でる音楽は私の心を揺さぶる。ハンカチで涙をふく家族の姿もあった。笑顔で拍手を贈る観客もいた。他人と比較するのではない、一生懸命に頑張っているその姿に、「できる力」を見せてくれた養護の子らの愛おしさに、涙したに違いない。一人一人皆自分の課題(目標)をもって舞台に立っている。個々の課題に優劣などあろうはずがない。可能性にチャレンジする子どもは等しく尊い。

 とびっきり、賞賛の意を込め舞台を降りる名役者達に言った。「みんな、大きな○だよ、花○だよ!」
 「みんな違ってみんないい。君がいてしあわせ」今日の発表会で子供たちからもらったメッセージ。平良市狩俣発、野田の森の優しい風にのせて、宮古島のみんなの処にも届けたい。養護の子どもたちのこの明るさと笑顔に素直な心を添えて。

   (宮古ペンクラブ会員・沖縄県立宮古養護学校校長)

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