ぺん遊ぺん楽


「ほうれん草のゴマ和え」

松谷 初美
(まつたに はつみ)


<2005年02/23掲載>
 ほうれん草のおいしい季節ですねー。みなさんはどうやって食べてます? 東京嫁になって20年。ばんたがやーぬ(我が家の)定番は「ゴマ和え」です。実はこれには、ぴっちゃがま(ほんの少し)苦い経験があって、いまでも時々この時期になるとその苦さがホロリと甦る。

 私は自慢じゃないけど、手先がくぱりゃ(不器用)な上に、大雑把(おおざっぱ)だ。育った家が大雑把な人が多いせいか、はたまた宮古の人の気質なのか、子どもの頃は、あまり気にせず過ごしてきた。でも、大人になっていろいろな場で他の人と過ごすようになると、自分の大雑把さを知るようになった。以前、友達家族とキャンプに行って、私のジャガイモの皮のむき方の雑さにあきれられたこともある。いいさいがよ。食べられれば。

 東京に嫁いできて、専業主婦の義母の手先の器用さ、細かさにはびっくりだった。何でもきれいにきちんとする。料理にも時間をかける。夕食なんて食べる2時間も前から支度をするのだから驚く。

 結婚してまだ日も浅い、ある日のこと。義母と台所に立っていた。「ほうれん草のゴマ和えを作るからほうれん草をゆでて」と義母。早速、洗ったほうれん草の根元を2センチくらい切り落とし茹でようとした。そしたら「えーっ!根元を切り落としたの???」とスットンキョーな声。「ほうれん草は一番根元に栄養があるのよ。切り落とすなんて」と呆れ顔の義母。「すみません(ひぇー! 落としちゃいけないものだったんだ)」と小さくなる私であった。

 仕込まなくては!と決心した(と思うんだ。口では言わなかったけど)義母はそれからいろいろな料理を私に教えた。その中でも「鰯のつみれ汁」や「コロッケ」、「ちらし寿司」は、やがて私の得意料理となる。おかげで大雑把でくぱりゃの私もなんとか、形にはなってきた。しかし、その義母も、私たちが結婚して3年目に孫の顔を見ることなく他界した。53歳若すぎる死だった。きっと教えたい事が山ほどあっただろうなーと今ごろ思う。

 この時季、ほうれん草を見ると、あの時のことをフッと思い出したりする。先日もスーパーで、パニパニ(生き生き)としたほうれん草があったので買ってきてゴマ和えにした。もちろんあれ以来根元を切り落としたことはないよー。ブリの刺身も んまかいぎ(おいしそう)だったので半身買ってきて、自分で切り、盛り付け、食卓に出した。が、夫がおいしそうだねと言って一切れ取ったら刺身がズラーっとくっついてきた。「…」

 2月16日は、義母の命日だった。きっとまた、何やってるの!と呆れていたに違いない。

  (宮古ペンクラブ会員・みゃーくふつメールマガジン主宰)top.gif (811 バイト)