ぺん遊ぺん楽


アングロサクソンのしたたかな戦略

〜米国のおためごかしのトリックに
           乗せられた日本〜

下地 昭五郎
(しもじ しょうごろう)


<2004年12/15掲載>
  ビル・トッテンといえば在日生活40年余りという大の知日派である。株式会社アシスト社長で日本型経済システムを重視し、来日以来日本の対米追従に警鐘をならしている。その彼が4年前に「アングロサクソンは人間を不幸にする」という本を著した。そのプロローグにこう書いている。アングロサクソンが資本主義をつくり上げていった歴史を深く知れば知るほど、私はこのシステムが人間を「不幸」にすることを確信している。そして、日本が不幸な選択をしようとしていることに、限りない憔悴(しょうすい)を感じている。あえて言わせてもらうなら、日本人は無知であると思う。巧妙なプロパガンダに乗せられ、本質を見ようとしない、とアングロサクソンのしたたかな戦略に翻弄される日本のリーダーたちに苦言を呈し続けている。

 最近、「拒否できない日本」―アメリカの日本改造がすすんでいる―という本を読んだ。この本にはマスコミには話題にならない驚嘆すべき真実が実にスリリングに紹介されている。アメリカの公文書に堂々と記録されているという「年次改革要望書」を僕は新聞などでついぞ見聞したことがない。恥ずかしいながら。これはブッシュ・シニア時代の日米構造協議(英語の原文はStructural Impediments Initiative)にさかのぼる。正確には「構造障壁イニシャティヴ」、つまりアメリカが日本の市場に参入しようとする上で邪魔になる構造的な障壁をアメリカ主導≠ナ取り除こうという意味である。

 民主党と共和党を問わず、アメリカの歴代政権が一貫して「イニシャティヴ」という言葉に執拗なまでに固執していること、またそれとはうらはらに日本政府がその言葉を使用したがらないことに、私たち国民はもっと注意を向けるべきだ、と警告している。この年次改革要望書により経済、司法などあらゆる面で規制を強いられているというのである。一体、アメリカの内政干渉による日本改造プログラムに終焉はあるのだろうか。

 同著の「菊と刀〜貿易戦争論」の結論として、外圧によって日本の思考・行動様式そのものを変形あるいは破壊することが日米双方のためであり、日本がアメリカと同じルールを覚えるまでそれを続けるほかはない、といって憚(はばか)らない。末恐ろしい戦略ではないか。これはもう日本文化の破壊以外のなにものでもない。占領時代の「閉ざされた言語空間『江藤淳』」が想起される。

 ところで、ジャーナリスト・清宮克良氏(毎日新聞・政治部)は「日米関係を相対化せよ」と日本の指導者層に苦言を呈している。相対化とは、「日米同盟ありき」の発想から脱却し、どの程度米国に協力するのか、日本の国益を考えながら冷徹に付き合うことである。米国の価値観を積極的に世界に広めるウイルソン主義を十字軍的な軍事拡大路線に歪めたのがブッシュ大統領である。「すごいアメリカ」を健全な国際主義に戻す努力こそ、日本は求められている、とブッシュ・ジュニア政権の2期目のスタートに当たり日本の今後の役割を提唱し、米国のユニラテラリズム(単独行動主義)を警戒している。

 19世紀末に米兵士の士気を鼓舞するためにいわれた「明白なる運命」―劣等民族を教化するというイデオロギーがDNAに刷り込まれた米国人の価値観(普遍的と自認する)に立脚した一極行動主義への追従であってはならない。政治、経済、文化(言語)などのすべての領域でイニシャティヴまたは世界標準化(ディファクト・スタンダード)を軍事面で最強を誇る米国が握る形でグローバリゼーションが進む中、相手国の国益を考えているようで実は自国の国益を優先するアングロサクソンのおためごかしのトリックを警戒したいものである。

  (宮古ペンクラブ会員)

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