ぺん遊ぺん楽
三波ヶ上
(みなんがぱな)
花城 千枝子
(はなしろ ちえこ)
<2004年08/11掲載>
「ひろい海だね」
子どもはビー玉の中に広いひろい海を見ることができる。
ごっご遊びをする子どもたちは、砂場の砂をごはんにもケーキにも見て、またその砂を盛り上げて、そびえたつ大きなお山と見る。
大人になっても(とくに女性)は、心の内にそのような子どもが生きつづけるようである。
主婦が毎朝お供えする茶とうは、湯のみ一杯のお茶だけど、時間
(とき)
を超えた多くのご先祖さまの分となる。
子どもだったころの心象風景のひとつであるが、おばあたちは忌みのある場所から持ち帰った食べ物を食べる前に、人差し指と親指の指先で3回つまみ、外へ投げすてた。
「キジャがたま(鬼邪?の分)」と言いつつ。
おばあのほんの少々のつまみで、すべてのもののけのけがれがはらい除かれ、家族は安心して食べることができた。
厨房のおばさんは、子どもの給食やおやつの食材すべてを、万一の食中毒やなんらかの事故に備えて、原因究明できる検食分(大さじほどの量)をたいせつに冷凍保存しておく。
我が園では、3月3日、ひなまつりの時、甘酒(カルピス)を三々九度の盃で、園長が女の子と差し向かい盃にそそぎ、差し上げる。そのわずかな盃一杯でたのしいひなまつりの雰囲気が保育園いっぱいに漂う。
ひなまつりといえば、旧暦では伝統行事のサニツ。女性は、健康を願い浜下り(ハマウリ)をする。
今年のその日、腰痛で病院通いしている母のために、ミナンガパナを取りに八重干瀬に浜下りしてきた。
(ミナンガパナとは、浜に打ち寄せる波の上方の海水を3回汲み取ったもの。それを容器に入れて家に持ち帰り、具合の悪い人の身体を清めると健康になるとの池間、佐良浜、西原の人々の言い伝えがある)。
はじめて下り立った八重干瀬の想像以上の雄大さ美しさ!、私の乏しい語彙力では愛でる言葉が見つからないまま、ただ見とれた。
(ここがニライカナイかもしれない…)
そうつぶやきつつ、北に向かい、押し寄せる波のハナ(上部)を1回、2回、3回と、掌ほどの小さなヨーグルト瓶にすくい入れた。
ヤビジとの縁が深い漁師だった父は
「ヤビジのインの水ちゃ(八重干瀬の海の水だとよ)。ガンジュウ(健康)になるさ」
母は、
「子どもだったころ、ウヤ(父親)によく連れていってもらったヤグミヤビジ(偉大な八重干瀬)のミナンガパナ。これで手も足も洗うね」
母ちゃんやおばあたちは、子どものように僅かな物に心をはてしなく広げる豊かな心で日々の生活を営む。それは、内なる子どもの心映え…。しなやかで強くて、思いやり深くって、三波ヶ上
(みなんがぱな)
のような小さきものを喜ぶ心。
(宮古ペンクラブ会員・保育園園長)