ぺん遊ぺん楽


エコノミック・アニマル

久貝 徳三(くがい とくぞう)


<2004年07/02掲載>
 最近はあまり聞かなくなったが、30年程前まで、日本のビジネスマンは、エコノミック・アニマルと揶揄(やゆ)されることがあった。利益追及のためになりふり構わず働くビジネスマンを、意味する言葉であった。ひどい言い方には、エコノミック・モンスターとも。

 それは、高度成長を続けていた日本に対する脅威とともに、蔑視と羨望の入り混ざった呼称だったように思う。
 太平洋戦争の時、あばれ回った帝國軍人の、横暴を思い起こしたのかもしれない。
 この言葉を始めに言った、パキスタンのプット大統領は、「経済的に長じた人」という意味で使ったという。

 その頃、日本のビジネスマンは世界各国に出向いて、会社のためならば相手の立場・思惑を無視し、札びらをちらつかせて何でも買いまくり売りまくった。東南アジアでは、熱帯雨林を禿げ山にする、自然破壊の元凶といわれ、社会主義国からは、現地の労働者を安い賃金で搾取していると非難された。

 ところが、10年後マレーシアのマハティール首相は「ルック・イースト」を唱え、日本に見習えと提唱した。1991年には、共産主義国家の牙城(がじょう)・ソ連邦が崩壊して、74年間に亘る共産主義体制が消滅、東西両陣営によるイデオロギー対立はなくなった。

 この頃から、日本人ビジネスマンに対する視点がかわった。日本は東南アジア現地に投資して合弁会社を設立、現地の人たちを雇い入れて現地生産を始めた。理由は労働費が安く、生産原価を抑えることができるということであった。しかし、現地労働者を搾取しているという言葉は聞こえなかった。日本国内の賃金と比べると格安だというのに。

 更に日本人が、観光に出かけてその国の経済に寄与するようになった。お土産品店に入ると、流ちょうな日本語で「いらっしゃいませ」と迎えてくれる。ある店では日本人観光客が来ないと、店が成り立たないとも聞いた。

 そのためであろうか、最近は日本人は歓迎こそすれ、蔑視するような目つきはない。かつてのエコノミック・アニマルが、ゼニを稼ぐ黄金虫・スカーラッブ・ビートルズに変わったのである。

 経済がすべてだとは言いたくない。が、経済力が国民のものの見方・考え方に、大きく影響していることは否定できない。経済的に豊かであることはよいことなのである。

 しかし、日本には東南アジアの人々に多大の迷惑をかけた歴史がある。どうも日本人には、強くなるとおごり高ぶり、相手を蔑視する性格があるようだ。
 日本軍は、世界最強といわれた、バルチック艦隊を撃破して日露戦争に大勝したが、そのおごりで、相手を蔑視し神の加護を声高に叫び、世界を相手に戦争を仕掛けるという愚直さも持ち合わせた国民でもあるのだ。

   (宮古ペンクラブ会員・フリーライター)

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