ぺん遊ぺん楽

 
ものづくりのセンス

久貝 勝盛
(くがい かつもり)


<2004年06/16掲載>
 高度に進化した人間。自然界の中では最高位に君臨している人間。人間がこれほどまでに進化した背景には長い地球の歴史の中で育まれた単純な神経細胞から、より精巧でより複雑な神経細胞への驚異的な発達がある。

 人間には約1000億もの神経細胞があり、外からの刺激によって神経細胞はお互いにネットワークを作る。何回か刺激が繰り返されるとその刺激に対するネットワークは定着する。言い換えればバランスのとれた良い刺激からはバランスのとれた神経のネットワークが作られる。バランスの悪い刺激からはアンバランスなネットワークしか作られないという事になる。

 バランスのとれた刺激とは私たちが持つ「見る」「嗅ぐ」「触れる」「聞く」「味わう」などの「五感」でとらえた感覚を、同じく「五感」でしっかりと補足、修正し、人間としてよりよい行動に生かすことのできるような刺激の事である。

 「五感」の他に「第六感」と呼ばれる感もある。これは過去の体験、すなわち、以前に「五感」をとおして知覚された記憶が新たな刺激に接する事によって無意識的に大脳のネットワークにつながって生ずる「感」の事であるとされる。プロの職人がちょっとした音を聴いたり、色の具合を見たり、においを嗅いだり、触れたりするだけで瞬間的にその対象物の状態を知ることができるのも、そのとぎすまされた「第六感」のなせる技である。ここで忘れてはならない重要な事は、そういうセンスは「ものづくり」の経験でしかつちかわれないということである。工業的には「工業のセンス」とも呼ばれ、スーパー技能者が持っている特殊な能力である。「五感」をとおしてくり返しくり返し新しい構築がなされればなされる程、その感性は高まる。小学校から高校生まではその感性が一番高まる大事な時期であるという。これからは、そういう感性、すなわち「工業のセンス」と「ものづくり」をとおして創意工夫のできる実践的な技術者が必要とされる。

 平成11年3月に国は「ものづくり基盤技術振興基本法」という法案を制定した。技術者がいなければ産業の発展はない。地域社会や国の発展もない。技術者の養成は国の存亡を左右しかねない。後20年もすると確実に技術者の数は大幅に不足するという。そこで国は上記のような法案を制定したのである。

 宮古工業高等学校では毎年、2学期にロボットコンテストが開催される。そこでは指導教師と生徒たちが夏休みを返上して、それこそシャープな「第六感」とアイデアを駆使して製作したロボットが高度な技を競い合う。毎年その小さな技術者たちのキラリと光るアイデアを楽しみにしている。

  (宮古ペンクラブ会員・平良市教育長)
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