ぺん遊ぺん楽


、みゃーくふつがおもしろい

さどやま せいこ


<2004年06/09掲載>
   宮古の民話に「黄金と若者」がある。ある貧しい漁師の若者が村一番の金持ちの娘を好きになる。2人は惚れ合っているのに、娘の方の親は世間体もあって結婚に反対する。それでも2人の意思は堅く、とうとう折れた父親は小さな包みを渡し、2人を村から追い払う。途中、娘は包みを開けると黄金が入っているので喜んで若者に見せる。と、こんなもん幾らでもある、と言って投げ捨てる。娘はびっくりするが、若者の家に行って2度びっくり、庭中に黄金が石ころのように転がっていたのだ。最後は言わずもがな、2人は幸せに暮らしたとさ。

 身近にある宝物や幸せには誰も関心を示さない。その価値に気が付かないと言った方が良いのかも知れない。言葉もその1つ。宮古の方言がこんなに楽しいものだと誰が思っただろう。使っている本人たちが卑近なものとして捉え、ましてや舞台で通用するなど誰も想像しなかったに違いない。最初、みゃーくふつが芝居に登場したのは10数年前、宮古郷友文化協会が主催して市民会館で上演された「綾船のあやぐ」。今は国民的スターとなった沖縄のおばあ平良とみさん、進さん夫妻と川満しぇんしぇいだった。「…さいが」「あっがいたんで」「あしばのーがー」、方言の訛が出るたびに会場は大爆笑。「あば、みゃーくふつも悪くないさいが」と思ったのは私ばかりではなかったはず。

 あれから10余年。平良市と平良市文化協会が主催して今年11回目を迎える方言大会、さいが族の本、下地暁や下地勇の方言あーぐ、何より驚くのはネット上でみゃーくふつが飛び交っている。故郷を離れて本土で住む若者たちがメールマガジンで交流、思い思いの故郷回帰を島訛で書き合っている。月2回の「くまから・かまから」は文語調ではなく口語調のおしゃべりメールといった感じ。主宰する松谷初美さんは下地町出身の内地嫁。2001年4月から始まり、現在77号、爆走中だ。最初遊びかと思っていたら、毎月第1と第3の木曜日と日にちを設定して一度も欠かさないと言う真面目さ。登録読者数も現在400人を越え、これまで読まれた総部数が約2万2千部になったとか。本気でみゃーくふつに取り組んでいる。

 言語は文化の根幹を成すとさえ言われ、人間は思考が与えられたことにより、言葉が生まれ様々な生活習慣を生み出してきた。我々の先祖は文字の無かった頃、口承によりあらゆる文化を子々孫々に伝えてきた。唄や民話、神話、伝説、諺など、豊富な言語生活が脈々と息づいてきたことがわかる。殊に「んきゃーんじゅく」と言われる諺は生活の中から編み出された言葉が何気なく日常会話の中にあり、その内容の豊かさは高度な文学性も示している。

 言い得て妙という言葉がある。方言の中には共通語では表現できないものが多々ある。「みゃーくとぅなぎ」もその1つ。永遠にという意味だそうだ。「子(ふふぁ)ん去(ぱっ)じぃあ、みゃーくとぅなぎ、胸(んに)ぬ棘(んぎ)」と使われる。つまり、子どもに先立たれると、一生胸に棘が刺さったままだ、という意味になるが、共通語に直すと悲しみが半減するような白々しさを感じる。

 携帯電話やネット上で会話をする時代となった。小学生の内からパソコンをいじり言語生活から段々と遠ざかる今の子どもたち。過去に関心も示さず、かといって未来に展望もなさそうだ。そんな中で、島の若者たちが方言をおもしろがって、いろんな場面で使っているということに、拍手をおくる中年おばさんである。

 (宮古ペンクラブ会員・かたりべ出版主宰)top.gif (811 バイト)