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八重干瀬観光上陸ガイドライン


梶原 健次
(かじわら けんじ)


<2004年05/06掲載>
 去る4月20〜22日に行われた宮古フェリーの八重干瀬観光上陸では、これまでの観光風景が大きく様変わりしたように感じられました獲物を探し回る光景が消え、市民ボランティアのサンゴ礁ガイドの説明を熱心に聞き、サンゴ礁の景観や生物の観察を楽しむ観光客が多くなっています。

 これまでの観光上陸では、観光客は事実上一切の制約なしで自由散策していました。厳密には沖縄県漁業調整規則や漁業権の規定などが存在するのですが、その内容や観光上陸が行われている状況が複雑であることから、ほとんど周知されていませんでした。そのためサンゴの踏みつぶしや魚介類乱獲によるサンゴ礁生態系の荒廃が懸念されるようになったわけです。

 これに対して今回の観光上陸にぎりぎり間に合わせるように、観光振興と環境保全のためのガイドラインが初めて策定されました。内容は生物採取の禁止やサンゴ踏みつぶしを避けるための努力などが中心です。「海に行くのに貝も採らんでどうするべき?」と言われたこともありますが、観光客の意識はだいぶ違います。2年前にアンケート調査をしたところ、生物採取に興味があると答えたのはわずか4・4パーセントでした。

 一部の旅行代理店では潮干狩りを目玉に集客し、実際に八重干瀬で魚介類採取を添乗員が観光客に指示していた例もありましたし、地元から観光上陸に参加した方の一部にはバールやドライバーなどを持ち込み、サンゴを壊しながらシャコガイをとっている光景も見られました。しかし多くの観光客はその光景に眉をひそめているようです。85・9パーセントの観光客が関心を寄せていたのは生物の生態やサンゴ礁の景観であると答え、実際に自分が参加した観光上陸に対して何らかの保全対策が必要だとも答えています。すなわちサンゴ礁保全への配慮は観光客自身の要望でもあるのです。

 今回提示されたガイドラインは平良市と観光協会の呼びかけでフェリー二社、宮古支庁、伊良部町、平良漁協、池間漁協、サンゴ礁ガイド有志で協議したものです。内容について強制力も罰則もありませんが、なるべく多くの関係者で協議し「地元ではサンゴ礁の保全と利用をこう考える」と共同提示することで、実効性をねらっています。現行のガイドラインは至ってシンプルで、いわば最低限のモラルを示したに過ぎませんが、運用結果をみて修正を重ね、より完成度の高いものにしたいと思います。観光上陸のガイドライン策定がうまくいけば、対象とする活動やエリアを拡大することも可能でしょう。サンゴ礁の保全と利用の問題は、観光上陸以外にも多くあります。アンカリングによるサンゴ破壊、サニツ本来の意義を忘れた潮干狩り、廃棄物投棄など広範です。

 環境保全に異議を唱える人はいませんが、環境問題の多くは利害関係やモラルの問題が大きなウェイトを占めているため、共通の目的に向かって地域的議論を重ねることには時間がかかります。最初から完璧なシステムは作れません。できるところからの積み重ねが必要だと思うのです。八重干瀬のガイドラインがその1つになればと考えています。

  (宮古ペンクラブ会員・平良市栽培漁業センター)

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