ぺん遊ぺん楽



サトウキビと黒糖と結い


渡久山 春英(とくやま しゅんえい)



<2004年02/27掲載>
 昨年の暮れに、下地町の「農業学校」の子供達が黒糖づくりに挑戦していることを本紙で知り、この稿を思いついた。キビ収穫の多忙な時宜(じぎ)を捉え、小さな菜園を耕し農業を愛する者として筆を執った次第である。
 その昔、宮古の農業に「黒いダイヤ」と言われた黒糖は、糖業を普及した城間正安が嚆矢(こうし)であることはあまりにも有名である。豪勇川満亀吉翁の碑と近い距離に城間正安主(しゅ)の住居跡があることを考えれば、農業王国下地町の子供達の農業学校は首肯(しゅこう)できる。
 本土からの観光客が畑一面に広がるサトウキビを見て、「大きなススキ」と言っていたが、その通り、サトウキビはススキと同じ禾本科(かほんか)の植物である。作物としては2年生の短日性作物に分類される。節に側芽を有し栄養体繁殖をする。つまり、自体の持つ栄養によって発芽するのである。葉は表面積が広く二酸化炭素や太陽の光も多量に受けている。
 宮古農林高校の研究によると、葉による二酸化炭素の摂取量は他の作物に比べて数倍も多いと発表している。このことは、炭酸同化作用(光合成)が盛んで炭水化物(糖)の生成も豊富であることを意味している。2年目の秋には梢頭(しょうとう)の成長点の細胞分裂は緩慢になり出穂(しゅっすい)し、収穫の時期を迎えるのである。
 黒糖づくりに欠かせないものに石灰(消石灰…水酸化カルシウム)がある。アルカリ性の強い物質である。キビの搾り汁は酸性である。酸性のキビ汁にアルカリ性の石灰をいれることによって中性の汁に仕立て、水分を蒸発させれば蔗糖(砂糖)のできあがりである(砂糖は中性食品)。
 以上は基本的な黒糖づくりの理論であるが、宮糖多良間工場長の仲間時次氏は次のように具体的な説明をしている。キビ汁は酸度(PHペーパー)が4・5位あり、石灰によってPH7・5位に中和し、キビ汁の温度は132度に設定する。石灰の量や煮詰める温度などの一連の操作はすべてコンピューターの制御によるものだと聞かされた。尚、石灰は中和剤としての役目の他に、凝固・沈殿作用があることも説明された。
 今年も製糖の最盛期を迎え、島は活気づいている。本紙によると、多良間の黒糖の品質は「特等の上」だそうだ。宮古圏域で唯一含蜜糖のブランド糖は多良間産のみである。
 昔のキビ刈り製糖は「結いまーる」の労働形態だったと覚えている。大人達が総出で働く光景は、子供達の心をも浮き立たせたものだ。私は、「結い」を沖縄独特の労働形態とばかり思っていた。ところが、NHK歌壇の作品集に「合掌屋根の葺(ふ)き替えが見事捗りぬ総出の結いをいまに伝えて」を読んで仰天した。豪雪地方の皆さんの団結と互助精神が、逞しく臨場感に満ちているからである。
 今の宮古の結いは言葉だけ一人歩きしている感じだ。老齢化と若者の離農。下地町の農業学校の子供達に期待したい。

   (元学校長)
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