旧平良市西原の産業廃棄物最終処分場火災から四年を迎えた二十八日、同火災訴訟原告団(下地博和団長)は大浦公民館で集会を開催した。地域が混乱した火災当時の状況と住民が心身に受けた痛みを風化させまいと写真やビデオで振り返り、勝訴への誓いを新たにした。集会には約二十人の原告団メンバーが参加。「支援者も増えており、一歩ずつ解決に向かっている」などと意見を交わし、結審まで結束して戦い抜くことや、郷友会など賛同者へ引き続き費用面での協力を求めていくことなどを確認した。
同訴訟は、同火災で健康被害などを受けたとして、旧平良市大浦の住民九十二人(提訴当時九十四人)が処分業者と監督責任を持つ県を相手取り、六千三百四十七万円の損害賠償を求めている。
一方で、七十七世帯百四十五人の地域住民のうち、「およそ三分の一」(下地原告団長)の住民は「行政に勝てるわけがない」との理由で裁判自体に反対する意見もあるという。
この日の原告団の集いでは、火災当時の消火活動や住民避難の様子や、住民健康調査などの写真、新聞記事、住民の証言などを収録したビデオを見ながら、火災後の様子を声に出し合って振り返った。
同原告団の大里正行さんは「法定の場で住民としての怒りや悲しみを表すことが、子々孫々に良い環境をつなぐことになる。(裁判に)反対している人たちにも正しい情報に耳を傾けてほしい」と訴訟の意義を強調。
自治会長の大浦敏光さんは「四年の間に、部落住民の間でも金銭面などでの細かい衝突はあったが、証人尋問が終われば裁判も集結を見るだろう。皆の気持ちを奮い立たせて最後まで頑張ろう」と話した。
下地原告団長は「災いを転じて福となすことができるよう、皆で力を合わせ部落の環境は自分たちの手で守ろう」と強く呼び掛けた。
一方で下地ハツ子さんは「火災からつらい思いを共有したのに、なぜきょうのこの日に皆が集まらないのか」と不満を表し、さらなる団結を求めた。
写真説明・西原産廃火災訴訟原告団が集い、火災を振り返るとともに勝訴を誓い合った=28日、宮古島市平良の大浦公民館
「故郷は自分たちで守る」/県と住民側の主張対立
旧平良市西原の産業廃棄物最終処分場火災は二十八日、発生から四年が経過した。この間、周辺環境への影響や人的被害を訴える住民側と、処分場の許認可権を持つ県が幾度も議論を重ねてきたが折り合いは付かず、決着は司法判断に委ねられている。県の調査内容に疑問を持つ住民と「環境評価、健康面とも調査してきた」(県文化環境部環境整備課)と主張する県。火災発生から四年を迎えた今も、双方に「和解」の二文字は見えてこない。住民の間では「風化」を懸念する声が聞こえる。
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二〇〇一年十一月二十八日夜。けたたましく鳴る消防車両のサイレンが西原周辺に響いた。「処分場が燃えているぞ」と大声を張り上げる周辺住民ら。火は瞬く間に処分場全体に広がり、大火災に発展した。火災で発生した大量の黒煙は大浦集落に流れ、集落内の住民は数b先の視界すら奪われた。旧平良市の対応で住民らは西原公民館に避難したが、言いようのない不安で眠れない夜を過ごした。
その後、次々と明るみに出た処分場経営のずさんさ。埋め立ての仕方など処分工法がまるで守られていない実態が浮き彫りとなり、住民らの怒りは噴出した。県は過去七十四回の指導を行ったとするが、住民らの不満は収まらない。「七十四回も指導して改善されないのに、なぜ営業を停止しなかったのか」「(目の痛みやかゆみなど)体の不調を訴える住民が多くいる」などと県の責任を追及し、適切な対応を求めた。
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「この火災は、県の産廃行政がしっかりしていれば防げた。とんでもない行政だ」と主張してきたのが旧平良市が立ち上げた調査委員会(関口鉄夫委員長)だ。このような声を受け、県は数々の調査を実施、処分場内のボーリングをはじめ住民の健康診断、処分場内外の環境評価を行った。
最終的には行政の関係者を除外し、第三者的立場から同問題を評価する専門委員会(委員長・渡邊昌東京農業大学教授)を立ち上げて調査を実施。この結果、「健康への影響は起きない」との結論に至った。だが、同委員会が評価の基礎にした県のデータなどの信ぴょう性について住民側が反発。結果として、同委員会にも住民側を納得させるだけの説得力はなかった。
「非は非として認めてほしい」と訴える住民側は〇三年四月、県と業者を相手取り損害賠償を求める訴訟を起こし、現在に至っている。
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火災発生から四年間を振り返り、住民側の中心となり窮状を訴えてきた下地博和さんは「この四年間を通して『自分たちの故郷は自分たちで守らなければならない』という思いを強く持った」と話し、県の産廃行政に頼れないことを繰り返し強調した。その上で「火災当時の気持ちになって部落内の結束を高めていきたい」と述べた。
一方で、県文化環境部環境整備課は「この問題についてはできる限りコメントを控えたい」と言葉少なだ。ただ「対応はしてきた。これからも地域の生活環境の保全を図る観点から、モニタリング調査を継続する。宮古島市とも連携し監視を続ける」とした。
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発生から四年を迎えた西原産廃火災。この環境問題を深く考えるきっかけになった事故を「風化させてはならない」というのは行政、住民共通の思いだ。住民が県行政に抱いた不信感は解消されないままだが、たとえ解決しようとも、生活用水を地下水に頼る宮古島にとって、環境問題は避けて通れない重要なテーマだ。
「風化」を恐れる下地さんは「あのような事故を二度と起こさないためにも、私たち一人ひとりが環境に対する認識を深める必要がある」と話し、行政、住民双方の意識改革を訴える。
(山下誠記者)
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