行雲流水

 先日訪れた総合病院の出入り口はいつになく混雑していた。待合室の座席はすでに満杯。それでも行き交う患者(?)は絶えなかった。そんな中のろのろと目の前を通過した車椅子の男女に目を疑った▼車椅子の男性と手押している女性は夫婦で共に八十代半ばと見えた。男性は虚ろな目を見開いて頭を垂れ女性は九十度近くも腰が曲がっている。車椅子を押しているからではない。手を離しても曲がったままである▼普段は杖をついているであろう不自由な体ながら病身の夫を案じてやむにやまれずやって来たに違いない。そう思った。高齢者が高齢者を介護する状況はメディアを通して承知していた。が、実際に目にした「老老介護」の現実は余りにも辛く悲しかった▼確かに介護保険で利用できる介護サービスには専門の施設に入所しながら受ける「施設介護サービス」もある。しかし二〇〇五年に成立した改正介護保険法によって保険給付の限度を超えたサービス利用の超過分は全額自己負担となった▼年金から天引きされる。少額年金者の被介護者にとって負担は厳しく泣く泣く施設から自宅に戻ったという事例報告は少なくない。しかもわが国は核家族化社会で戻った自宅に若年世代はない▼経済に余裕のない老夫婦の単一世代家庭にあっては二十四時間体制を要する「老老介護」は過酷。介護疲れ介護共倒れの痛ましい事態は昨今頻発している。政府が熱をあげる憲法・教育基本法・イラク派遣延長問題等は今国民にとってほんとうに緊急事か。

(2007/04/06掲載)

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