行雲流水

 福山の近くに「アリランガー」と呼ばれる湧き水の出る場所があった。そこでは、朝鮮から従軍慰安婦として連行されてきた女性たちが水浴したり洗濯をしながら朝鮮の代表的民謡である「アリラン」をよく歌っていたという。いつしか福山の人たちはそこを「アリランガー」と呼ぶようになっていた。歌をうたうことで、故郷を想い、哀れな身の上を慰め合っていたのだろう。彼女たちの悲しみや怒りは想像に難くない▼もうひとつ、沖縄戦中に激戦地区では集団自決が多く行われた。米軍に包囲された壕内での兵士の自決や野戦病院の撤退時における重傷病兵の自決処分などもあるが、圧倒的に多いのは一般住民の集団自決であった。慶良間諸島の場合、座間味村三百五十八人、渡嘉敷村三百二十九人が自決したと報告されている(沖縄大百科事典)▼自決は多くの場合、家族単位か壕単位で日本軍の配った手榴弾や爆雷で一瞬のうちに爆死したり、肉親どうしで惨殺しあって行われた▼この集団自決は、日本軍の隊長命令によるものとする『沖縄ノート』の記述が虚偽であるとして、当時の隊長らが著者の大江健三郎氏と出版元の岩波書店を訴えている。住民を追い込んだこの惨劇を、隊長が命令したか否かということで矮小化して、ことの本質を見えなくしてはならない▼このような動きのなかで、文部科学省は、来春から使用する高校日本史の教科書の、日本軍の強制で住民が集団自決したとする記述に検定意見をつけ「日本軍による」という部分を削らせた▼ともあれ、教師は沖縄戦の実相を十分に研究、次世代に真実を伝える使命を負っている。
ていった」と同記念誌の中で記している。歴史の検証を怠ってはなるまい。

(2007/04/04掲載)

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