行雲流水

 平成十九年三月一日、「生まれることなく亡くなった子供達の慰霊祭」が国立療養所宮古南静園の公会堂でしめやかに執り行われた。「生まれることなく〜」とは、国のハンセン病政策の強制堕胎のことだ。祭壇には御霊たちを慰めるかのように供えられた子供用の玩具が慰霊祭を象徴していた▼開式の辞の後、参列者全員による黙祷が捧げられ、その後、園長、全療協会長・入所者自治会長、厚生労働大臣、沖縄県知事、宮古島市長、県ゆうな協会理事長らによる慰霊の言葉が粛々と述べられた▼園長以下参列者全員により献花が行われて、弔電披露の後、北中学校の女子コーラス部による澄み切った慰霊の歌声が神聖なホールに流れた。殊に「千の風になって」を耳にすると、祭壇の女子たちの悲痛の声が風になってホールの隅々まで吹きわたっているような空気に包まれた▼ところで、この慰霊祭の前に、ハンセン病問題ネットワーク沖縄とハンセン病市民学会が二月二十七日、宮古南静園を訪ね、前述の堕胎児合同慰霊祭で、強制断種・堕胎についての謝罪と、「胎児標本」の実態把握と追跡調査を要請した▼両団体は、同園に胎児標本が存在せず、強制堕胎も明確にされない中で慰霊祭が執り行われたことは「真実がうやむやにされかねない」と危惧。「真相究明と歴史を風化させないための努力の継続を」と求めた(本紙、二月二十八日既報)▼同慰霊祭は式典終了後、納骨堂に移動し、関係者が供養塔に献花を行い、御霊の冥福を祈った。創立七十周年記念誌の編集委員長の松村憲一氏は「過酷な状況の下で、多くの胎児の命が、母親の腹の中で消されていった」と同記念誌の中で記している。歴史の検証を怠ってはなるまい。

(2007/03/30掲載)

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