行雲流水

 市民総合文化祭「芸術劇場」のオカリナコンサート。終盤アンコール曲が流れるや館内には共感のさざ波が立った。すかさず舞台のスクリーンには二十二行の歌詞が大きく投射された。投射された歌詞は新井満さん訳詩作曲の「千の風になって」▼口ずさむ聴衆。間もなくオカリナの澄みきった音色にリードされて全員大合唱。「私の墓の前で 泣かないでください/そこに私はいません 眠ってなんかいません/千の風に/千の風になって/あの大きな空を/吹きわたっています/…」と歌い出した▼死と再生の詩―と言われる短詩「一〇〇〇の風」は二〇〇三年八月二十八日付の朝日新聞「天声人語」で紹介され反響を呼んだ。英国では一九九五年BBCも放送している▼「アイルランド共和軍のテロでなくなった二十四歳の青年が、両親に、ぼくが死んだ時に開封して下さいと託した封筒の中にこの詩が残されていた」と。米国では十一歳の少女が九・一一同時多発テロで亡くなった父親をしのんで朗読した▼詩の作者は英国人、米国人、米国先住民(の伝承)など諸説はあるが未だ不明(同「天声人語」)だと言う。作詞家で作曲家の新井さんは自作「千の風になって」について、幼なじみの弁護士の奥さんが三人の子供を残してガンで亡くなった▼残された家族の悲しみは尋常ではない。絶望のどん底に蹴落とされた家族にとって少しでも慰めになればと何カ月もかけて原詩英語詩をさがし出し私流に日本語訳詩を作って歌にした、と書いている。

(2007/03/23掲載)

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