行雲流水

 先週、宮古方言マガジン傑作選『くまから・かまから』の出版祝賀会が催され、盛会を極めた。宮古方言マガジンは東京在住の松谷初美さんが主宰するメールマガジンで、月二回の割りで発行されており、多くの人に愛読されている。その中から選りすぐってまとめられたのが今回出版された傑作選である。主な書き手は現在十八人で、宮古生まれという共通点をもちながらも、個性は多彩である▼一行詩がある、「ちゅうか から あにぎな ちゃーゆ ぬん」(急須からそのままお茶を飲む)。だいず うむっし、懐かしい。素朴でおおらかな働き者のおじいをイメージする。校庭や路地、林のたたずまい、ぴんぎヌーマ(馬)やフナタ(蛙)などの話が、家族や友人と親しく過ごした記憶と重なって数々の楽しい物語を生み出している▼書き手たちを結びつけた宮古方言の素晴らしさはさらに探求されていく。母音の特徴やその歴史的変化がある。また、つと(土産)や、ない(地震)、まる(排便する)など、万葉集に出てくるような古い言葉の存在−いわゆる日琉同祖論の根拠を示す一つにもなっている言語論への接近である▼民俗文化への関心も深くパーントウやミャークヅツ、神願いの話は臨場感を伴って伝わってくる▼「病院物語」に出てくるいろいろな話は感動的だ。筆者は、亡くなった患者のために生前生けられていた薔薇の枝を自宅に植え、翌年一輪の花を咲かす。今は亡き脳性マヒの兄の気持ちになって書かれた詩は涙を誘う▼文化を拓く、知的で心優しい皆さんの素敵な活動に拍手を贈りたい。

(2007/03/14掲載)

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