行雲流水

 春、弥生(やよい)。桃の節句と端午(たんご)の時節がめぐってきた。春の訪れを告げる桃の節句の到来は、どことなく陽気で心浮き立つものを感ずる。スーパーなどでも「うれしいひな祭り」のメロディーが流れ、ショッピングする人の顔にもなにやら華やいだ雰囲気が漂う。孫を連れて物色する祖父の姿も微笑ましい▼玩具店では、五人飾、御所石庭飾のまごころ雛(五万円程度)が人気でよく売れているようだ。改めて中を覗くと、精巧に出来上がった五人雛が飾られている。奥の段にお内裏様と前方の段にお雛様が華やかな衣装をまとって雅(みやび)やかな表情をたたえている▼ところで、雛人形の起源は「ひとがた」と言われている。ひとがたとは木片や紙を人のかたちに切ったもので、これで身体を撫でて災厄やけがれを祓(はら)い、水辺に流す。現在も各地で流し雛の行事が伝わっている▼古代の祓いの道具であったひとがたは、時代が下がるにつれて流さずに手元に置いて飾り、娘の成長を祝う雛人形へと発展し、立雛に始まり、泰平な世が続いた江戸時代には幾通りもの雛人形が生み出された、といわれている▼その中の一つのスタイルに次郎左衛門雛がある。京の雛屋次郎左衛門が考案したことでこの名がある。まん丸の顔にきょとんとした引目かぎ鼻の表情の愛らしさが人気を博したといわれている▼明日は三月三日、楽しい雛祭りだ。すでに雛人形を飾られたお宅も多いと聞く。それぞれの家庭で女の子の成長を祝って優美で楽しい一日を過ごしてほしいものだ。それが可愛い娘や孫の健やかな成長につながる。

(2007/03/02掲載)

<<<行雲流水ページにもどる