行雲流水

 先日、県立宮古養護学校の創立三十年記念事業の一環として、また宮古島市教育委員会の「教育の日」制定を記念して島袋勉氏を講師に「夢をあきらめない」と題する講演会が催され、駆けつけた大勢の市民に深い感動を与えた▼講師の島袋氏は二〇〇一年、交通事故で両足を失い、その時の衝撃で記憶が二十分しか持たない記憶障害に陥り、視力にも異常をきたす。そうしたハンディを乗りこえ、ついにはマラソンに挑戦、ホノルルマラソンに出場して完走する▼何故マラソンなのか。「一番苦手なことが出来たら他のことは何でも出来るんじゃないか」と考え、「苦手なことから逃げない自分を鍛えるために」マラソンに取り組んだという。この並外れた強靱な精神力から繰り出される、体験を踏まえた「言い訳をしない」、「諦めない」、「できないことに捉われるのではなく出来ることを考える」などの言葉が説得力を持つ▼また、懸命に努力するだけでなく、工夫してその可能性を広げていく姿勢にも目を見張るものがある。車いすの機能を研究、自らの体に合わせて活用する。仕事に差しつかえる記憶障害に、常にメモをとることで対応する▼これらの生きる力は他者の支えによるものだと氏はとらえる。「それだけ痛い思いをして何も学ばなければただの馬鹿だよ」と、母。生きていることを「運がよかったね」と励ます看護師。下半身不随のものがワープロの練習に励んでいる姿▼感謝は使命感へと止揚される。ランニングシャツの背面には「For your smile , We keep running 」と書かれている。共に生きることの賛歌である。

(2007/02/28掲載)

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