行雲流水

 世論調査によると、東京都などの都市部と地方の、大企業と中小零細企業の、正社員と非社員の格差が拡大していることの認識が一般的になってきたことが分かる。格差はあって当然という声もあるが、問題はそんな次元の問題ではない▼門倉貴史著『ワーキングプア』によると、その実態は深刻である。ワーキングプアとは格差社会の米国で生まれたことばで「働く貧困層」を意味する。定義は明確ではないが、著者は、生活保護水準以下の暮らしをしている層のことを指し、便宜的に年間収入二百万円に満たない人たちとしている▼厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、日本の労働者の実に四人に一人はこの層に属している。原因は雇用形態の変化による所得の二極化や規制緩和の影響が大きい▼典型的な例がタクシー業界の受けているダメージである。規制緩和によって車両のリース(賃貸し)が全面解禁され、競争激化でドライバーの労働条件は深刻な打撃を受けている。那覇市内を走るタクシーのドライバーは「観光客は増えているというが、収入は三割程度落ちた」と話していた。ちなみに、沖縄(那覇市)のタクシーによる年収は百九十万円で標準家庭の年間生活保護額の七割に満たない(自交総連)▼生活保護とは、日本国憲法二十五条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」の理念に基づいて、国民の生存権を保障する国が定めた制度である▼一生懸命働いているのに、生活保護水準の暮らしから脱却出来ない人々がいる現実では、とても「美しい国」とは言えない。

(2007/01/24掲載)

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