行雲流水

 明後日は家族そろって「年越しそば」を味わい「除夜の鐘」を聴く大晦日である。年の暮れの三十一日(みそか)にそばを食する習慣は新年が目の前の側(そば)まで来ているという洒落と寿命がそばのように長くありたいとの願望がもたらしたと言う▼除夜の鐘は深夜の夜空に百八回響きわたる。人間には心を煩わし身体を悩ます欲望(煩悩)が三十六種もありそれは過去・現在・未来の三世にわたって生み出されるから人は三倍の「百八煩悩」を抱え込むことになった▼しかし大晦日の夜。除夜の鐘を聴くことによって旧年中につくった罪とその罪をつくった心「煩悩」は取り除かれるから人は平等に清らかな心で新年を迎えることができると仏教は教える。かくて除夜の鐘は百八回つかれ厳かな音色を全国津々浦々に鳴り響かせている▼寺院ではつく前に鐘に向かって合掌する。百七回は旧年中につき、残り一回は新年につく。世相は昨今「煩悩」つきることのない晴れ間なき暗雲に覆われている。殊に若い世代の皆さんにとっては進学就職問題など格差社会≠フ壁は厳しい▼それでも己を見失うことなく将来の自立ある自画像を確かなものにするためにも年に一度の「除夜の鐘」の真意に思いを馳せ心静かに聴いてほしい▼わが門に新年来たり/あら玉の祝言(ほぎごと)言ひぬ/おめでたう努め給へや/本年は君の年なり…慎みて努め給へや/その希望成らぬ事なし/風を呼び雪に乗る者/本年は君の年なり(佐藤春夫「新年来る」)。

(2006/12/29掲載)

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