行雲流水

 つう「これなんだわ、みんなこれのためなんだわ。おかね…おかね…あたしはただ美しい布を見てもらいたくて…それを見て喜んでくれるのが嬉しくて…ただそれだけのために身を細らせて織ってあげたのに」。傷ついた鶴だった自分を救ってくれた与ひょうのため、つうは羽で美しい布を織る。しかし、運ずと惣どにそそのかされて与ひょうは布を売って金儲けに走る▼つう「ああ、だんだんあんたが遠くなってく。遠くなってく。小さくなってく」。愛情の表現である一枚の布が逆に二人を引き離していく。そこには純粋な愛に包まれた生活が崩壊していく過程が描かれており、人間の弱さだけでなく、どうしようもない業が暗示されている▼「夕鶴」は民話「鶴女房」を戯曲化したもので、特に名優山本安英の千回を超える舞台が多くの国民を魅了した。その作者である木下順二氏が十月末に亡くなった。氏は作品を通して、人間の普遍的な営みを追求するとともに、知識人の平和運動にも積極的に参加した▼昭和三十年にはアジア諸国会議、世界平和会議に参加、沖縄問題にも関心をもち、昭和三十六年には戯曲「沖縄」を発表している▼自身の作品「沖縄」について、氏は次のように書いている「たとえ政治が問題を解決しても、沖縄と本土の人々がそれぞれに生き生きとした生命力を持って自立し得る人間になっていないのなら、本当の幸福はそこからはうまれないだろう…、人間回復、そのための営みの必要性こそが「沖縄」の基本的テーマである▼木下氏の目を通して、改めて世相を見つめてみたい。

(2006/12/20掲載)

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