行雲流水

 「赤いリンゴにくちびるよせて…リンゴの気持ちはよくわかる」とうたう「リンゴの歌」は敗戦で打ちひしがれた日本人の慰めとなって、全国に流れていった。その頃、闇市でリンゴ一個の値段は大工の日給より高く、人々は「リンゴ高いや、高いやリンゴ」と替歌にしてもうたった。それでも「撃ちてし止まむ」などの戦時中のスローガンに比べて、なんと明るく希望に満ちていることか▼流行することがらや歌、言葉はその時代背景から生み出される。終戦の年、時の首相は「国民はことごとく反省しなければならない」と、いわゆる「一億総懺悔」発言をする。この発言に対して「戦争責任をうやむやにするものだ」との批判が強くなり、結局東久邇内閣は退陣する▼テレビ放送が始まったのは一九五六年で、それから三年後早くも番組の低俗化が問題になり、大宅荘一は「一億総白痴化」と造語する。現在、テレビの影響は絶大で、情報を批判的に解読する力(メディア・リテラシー)の必要性が強調されるようになってきた▼「ほめ殺し」という流行語も記憶に新しい。右翼団体が「竹下は日本一金儲けがうまい」とほめてイメージダウンを図る。弱みを突きつけられて、入札に便宜を与える知事など、今も変わりがない▼「三ちゃん農業」、「断絶」などの流行語で表された現実もそのままである▼今年発表された流行語は「格差社会」以外はどうでもいいものだ。懸命に働いても生活が出来ない=「ワーキング・プア」が来年の流行語になりそうだ。「はたらけど はたらけど猶(なお)わが生活(くらし)楽にならざり じっと手を見る」(啄木)。

(2006/12/13掲載)

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