行雲流水

 各地で還暦や古稀の祝いが盛んに行われている。戦争と戦後の生活、アメリカユーからヤマトユーへの変遷など、激動する時代を懸命に過ごしてきた感慨と、時代を共に生きてきた同世代への思いには特別なものがあるに違いない▼上野学区の昭和九年生の皆さんは生年祝いの一環として記念誌を発行している。それぞれが、「小学校の思い出」や「子どもの目でみたいくさ世」、「台湾疎開の泣き笑い」や「戦後の苦難と苦学の時代」などのタイトルで来し方への思いを綴っている▼その多彩な内容は、個人の思い出にとどまらず、優れて時代の証言になっている▼当然のことながら、戦争とそれに伴う生活苦が多く取り上げられている。「飛行場設営のため住居の立ち退きを命ぜられ、土地も取り上げられて生活に困窮した」。「戦後は、兵隊と民間人との食糧争奪戦だった。兵隊は生きるためにネズミやヘビ、カエルまで食べたがそれでも栄養失調で多くが死んでいった」。「私たちの同期生は百人のうち、男二十三人、女四人しか中学を卒業していない。戦争の後遺症が生涯付きまとった世代である」。何故このような悲惨な戦争が起こるのか。満州事変から始まった「十五年戦争」を概観する文章もあって、認識が深められている▼苦しい時代であったが、そこには素朴に、やんちゃに遊ぶ子どもの姿があり、深い絆で結ばれた家族愛があった。何よりも、多くの困難を乗り越えて懸命に人生に立ち向かう人々の姿がある▼この貴重な体験は、後に続く世代にこそ伝えなければならない。望ましい未来のために。

(2006/12/06掲載)

<<<行雲流水ページにもどる