行雲流水

 道の美らさや かいやの前、あやぐの美らさや 宮古のあやぐ。―海の美しさはサンゴの林を育て、地の恵みはキビ畑を繁らせ、人間の知能は宮古上布となって美を創り、人情の厚さは歌となってほとばしった。金井喜久子氏が自らの半生を綴った『ニライの歌』の書き出しの言葉である▼この賛歌にみられる郷土愛が氏の創作活動の原点にはある。地域に伝わる民謡・音楽が蔑視されていた風潮のなかで、一貫して沖縄の民謡の価値を認め、その素晴らしさを全国のいや世界の人たちに紹介してこられた。「私たちの血を躍らせ、魂に呼びかけ強く心を打つ民謡」は普遍的な美しさを持つという信念がそこにはあった▼氏は、この民謡をより広く紹介するのに必要な本格的な採譜を沖縄では初めて行い、約百曲をまとめて『琉球の民謡』として出版した。この本は毎日出版文化賞受賞の栄誉に輝いた▼国際民族音楽会議に日本代表の団長として参加したことも、映画「八月十五夜の茶屋」で音楽を担当したことも、沖縄民謡を取り入れた交響曲やオペラを作曲したことも「沖縄の民謡」が発展的に紹介出来たという一点で氏を喜ばせた▼先日、「金井喜久子生誕百年記念演奏会」が催されたが、郷土が生んだ偉大な作曲家を称え、記念するのにふさわしいものであった。レコード大賞を受賞した「じんじん」をみやこ少年少女合唱団が歌い、氏が作曲した復帰祝典序曲「飛翔」を宮古高等学校吹奏楽部が演奏したことも、氏が残された遺産の継承を印象づけた▼氏は書いている「私は音楽の中にニライカナイを求め続けてきた」。

(2006/11/29掲載)

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