行雲流水

 「国に尽さんと欲せば必ずしも政治または軍事に携わるの要はない。社会に仕えんと欲せば必ずしも社会事業に従事するの要はない。われに付与せられし能力に応じわがなすべき事を忠実になせばそれ以上の愛国的行為はない。また社会的事業はない」▼これは青年に対する内村鑑三の言葉である。札幌農学校(現北大農学部)の開校で米国から招かれて八カ月の任期を終え帰国に際して「少年よ大志を抱け」の名言を残したウィリアム・スミス・クラーク博士の影響により内村はキリスト教にふれた▼お茶の水女子大教授藤原正彦氏が「新渡戸の武士道は私が幼い頃から吹き込まれていた行動基準と同一です」(『国家の品格』)と共感している『武士道』の著者新渡戸稲造は内村と同校同期の二期生である。共に洗礼を受けてキリスト教徒となった▼後に内村は米国に留学するがスリや盗難に遭い根強い人種差別も目撃したりして信仰の母国米国の余りの現実に悲嘆。キリスト教の分裂分派の多さにも「一部分が他の一部分に対して…天幕を張る…すべての仰々しい主義から離れよ」と言い無教会主義に傾く▼冒頭の言葉に続けて内村鑑三は言う「レンブラントは善(よ)き絵を描いてオランダ国の名を世界に揚げた…美術も音楽も作詩も説教も忠実にこれをなせば国を興(おこ)し民を化するの事業である。必ずしも議会の壇上に登るに及ばず」「すべてなんじの手に堪(た)うる事は力を尽くしてこれをなすべし」と。故郷東村に光を恵みつづける宮里藍が思い浮かぶ。

(2006/11/17掲載)

<<<行雲流水ページにもどる