行雲流水

 詩人の長田弘は書いている「すべては読書から始まる。本を読むことが読書なのではありません。自分の心のなかに失いたくない言葉の蓄え場所をつくりだすのが読書です」▼メディアの発達によって情報が氾濫しているが、人々を結びつけるはずのコミュニケーションがうまく機能しているとはとても思えない。読書によって、それぞれが自らの存在のよりどころ、感覚を確立することがますます重要になってきたのではないか▼毎週、日曜日に放映されるNHKの「BSブックレビュー」には、各界で活躍している三人の著名人がそれぞれ三冊の本を持ちよって推薦、そのうちの一冊ずつは司会者を交えて合評をする。本に描かれる世界の多様さ、深さ、魅力が伝わってきて感銘を受ける。それにしても参加者たちの読書力には圧倒される。特に司会者の一人中江ゆり氏は毎週最低三冊の本を読んで話し合いに参加している▼この番組ではまた、注目される作家等を招いて最新の話題作などについて話を聴いている。去る日曜日には、思春期に非行に染まっていく高校生を描いた小説『光抱く友よ』で第九十回芥川賞を受賞した作家の高樹のぶ子氏が招かれた▼氏は九州の大学の客員教授として、アジア総合研究センター主催の「サイア」と呼ばれるイベントに参加、「アジアにひたる」というテーマで相互の作品を通して文化の交流に尽力している。今回はベトナムの文化状況が話題になった▼紹介される本も実際にはなかなか読めないが、優れた知性たちの話は知的充実感を与えてくれて、快い。

(2006/11/15掲載)

<<<行雲流水ページにもどる