行雲流水

 よき寝床あり/明日食べるだけのパンがあり/台所にその寒さをふせぐだけの炭があれば/―家のうえに屋根があり屋根のうえに月あるをおもうのみにてわが心足る/われはかかる平静なる人生を欲す(百田宗治「人生」)▼昨今メディアは「いざなぎ越え」という言葉を盛んに伝えている。四十一年前の一九六五年十一月から一九七〇年七月までの五十七カ月も続いた好景気「いざなぎ景気」を上まわる勢いで景気は回復しつつあると言うのである▼確かに当時のわが国経済は毎年実質成長率一〇%以上の高度成長を続けていた。まさに有史来の景気ということで日本神話に絡めた「神武景気」「岩戸景気」「いざなぎ景気」の表現にふさわしい好景気を保っていたのである▼日銀が先月十九日支店長会議で議論し発表した「地域経済報告」も北海道から九州沖縄の全地域において景気は拡大または回復方向にあるとの見解を示した。しかしあるテレビの街頭インタビューに応じた国民の多くは「景気回復?そんな生活実感はまったくない!」と手厳しく答えていた▼低所得層でも前述の「〜かかる平静なる人生」とはかけ離れた状況にあり中小・零細企業の倒産件数は今なお減らない。景気回復は正社員を解雇して非正社員を用い人件費を浮かせた大企業利益の下支えによるもの▼回復云々は裕福な大都市好景気の恩恵に浴している公務員や資産家が口にしているだけ。富めるものは富み苦しい者はさらに苦しくなっていると経済評論家は指摘している。

(2006/11/03掲載)

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