行雲流水

 「今一冊の絵本が日本の若者を揺り動かしている」NHKテレビのニュースキャスターはそんな意味のことを告げていた。絵本と若者? 青少年がらみの異常事件が連日のように起きている昨今絵本と若者の結びつきは当初木に竹を接ぐの例えに思えた▼絵本のタイトルは「ハチドリのひとしずく」。内容は南米のアンデス地方に住む先住民から聞いた話である。紹介者は十六年間の海外生活を経て明治学院大学国際学部教授に就いた文化人類学者で環境運動家の辻信一氏▼森が燃えていました/森の生きものたちは/われ先にと/逃げて/いきました/でもクリキンディという名の/ハチドリだけは/いったりきたり/くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは/火の上に落としていきます▼動物たちがそれを見て/「そんなことをして/いったい何になるんだ」といって笑います/クリキンディは/こう答えました/「私は、私にできることをしているだけ」絵本の中の物語はわずか十七行の構成である▼ハチドリが答えた最後の行は重いメッセージとなって「ハチドリの勇気を見習いたい」「私も自分の一滴をみつけて踏み出そう」「自分にできる最大限の努力をしよう」「どんな小さなことでも簡単に諦めてはいけない」▼「言い訳ばかりしていた自分が恥ずかしい」などなど若者の心を揺さぶっていると言う。そしてハチドリの一言に共感を深め「今、私にできることは」と真剣に模索し地道に行動を起こす若者が増えていると言う。

(2006/09/08掲載)

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