行雲流水

 過日放映されたNHKスペシャルのタイトル「ワーキングプア〜働いても働いても豊かになれない〜」を目にした時反射的に石川啄木の短歌『働けど働けどなお我暮らし楽にならざりじっと手を見る』を思い起こした▼もしスペシャルのタイトルが啄木のこの歌になぞらえて表示されたものだとすれば不適切の批判は免れないであろう。テレビが紹介していたのは懸命に働いても働いても生活保護水準以下の生活しかできない人々の悲惨な姿だった▼対するに啄木は家族のために必死になって「働けど働けど」ではなく定職ももたず妻子も放置して借金と酒と女買いに明け暮れていたからである。「我暮らし楽にならざり」は啄木自身の怠惰ゆえであり時代や社会環境が原因ではなかったと研究者は指摘する▼テレビが伝えたある山村の崩壊は明らかに弱者救済の視点を失った市場経済優先の国策に起因していた。二十数軒もあった住居はわずか四軒となり豊かな農産物を産出していた畑地は見る影もなく荒廃。往来客で活気づいていた商店通りも昔日の賑わいはなく閑古鳥▼役場には税金納入不可申請の住民が列をつくる。働いても働いても生活保護水準以下で暮らすしかない貧困家庭。ワーキングプアと呼ばれるこの「働く貧困層」(貧困家庭)が今日本では急増拡大▼全国全所帯の十分の一およそ四百万所帯はまさにワーキングプアだと言う。働く意欲があっても定職につけない若者。高齢者には医療費や介護保険料の負担増。小泉改革は何だったのか。

(2006/07/28掲載)

<<<行雲流水ページにもどる