行雲流水

 沖縄県歴史教育者協議会宮古支部によって『宮古の歴史と文化を歩く』が出版された。史跡や文化財等を訪ね歩く際、より深く宮古の歴史や文化に触れるためのガイドブックとみていい。とは言っても普通の観光ガイドブックとはいささか趣を異にする。宮古の政治・経済、教育・文化、産業、民俗行事、戦争、民衆運動、自然等について、重要事項の歴史的意味や現状が、コンパクトに記述されていて、読み物としても活用できる▼この本は、一つの勉強会から生み出されたものである。会員は割り当てられた項目について、文献や関係者に当たって原案をまとめ、それを全員の討議にかけて成案にする。その際、おもねることなく、事実と真実を旨として、現時点における学問の到達点に沿うように努力がなされた。従ってさらなる研究の積み重ねは、もとより期待されるところである▼この本の序論「宮古の歴史と文化を歩く」のサブタイトルが「東アジアの中の宮古」であることが示すように現代アジアの歴史に大きな関わりを持ってきたことは「台湾遭害事件」一つとっても明らかである。本書は孤立した地域の歴史や文化ではなく、日本史のあるいは世界史的観点から、宮古の歴史に光を当てている。また、幾多の苦難の歴史にもかかわらず、独自の文化を守り育て、地域の健全な発展に努力してきた地域の人々を誇りとするスタンスをとっている▼地域社会は激しく変化している。その辺りへの論考も今後求められるだろう。伊波普猷はニーチェの言葉を引用して度々語った「汝の立つ所を深く掘れ、其処に泉あり」。

 

(2006/07/05掲載)

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