行雲流水

 日本経済高度成長期で「消費者は王様だ」ともてはやされていた頃の放課後、女生徒四名は農業実習で収穫したトマトをバケツ二つにつめ公設市場へと向かった。小一時間後戻ってきた女生徒たちのバケツには大量のトマトがそのまま残っていた▼形が悪いと言われ売れなかったと言う。確かにどのトマトも表面でこぼこで市販品に比べると著しく見劣りがした。しかしうま味や栄養価においては大店舗に並ぶトマトと何ら変わらないはずである▼絞ればジュースになるし刻めばサラダの材料にもなる。生活習慣病を引き起こす活性酸素を抑えるリコピンなどカロテノイドの含有量も他の果菜に比べると抜群に多い健康食材である▼それでも生徒たちが相手した消費者は外面の美しさを優先した。食材に対する美形志向≠ヘ量販店商法がもたらしたと言う。商品を迅速かつ均等にパックに詰めるには形やサイズの均一化は合理的で規格はずれは不要となり店頭から消えた▼その結果消費者は形がよい食材のみを求める先入観を植えつけられたと言うのである。大量に生産し選別出荷するゆとりがない小規模生産者にとっては好ましくない先入観である。が、昨今市民の消費意識は目に見えてこれら生産者と連動しつつある▼購買行動も「地産地消」を掲げて頑張っている売店を介して活気づいている。昔市内のどこにもあった「マッチャ」(小売り店)のにぎわいそのものである。生産関係者が消費者と直接掛け合う売買光景ははた目にもほほえましい。

(2006/06/02掲載)

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