行雲流水

 「通り池」は神秘的な魅力をたたえた景勝地であるとともに、地質学上の価値を持つ。この度、この「通り池」が、国の名勝、天然記念物に指定されたことを契機に、観光資源としてだけでなく、教育の上でも一層活用されることが期待される▼中・高校生たちは理科の授業で一つの実験をする。石灰水の中にストローで息を吹き込むと呼気の中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムが出来て白濁する。石灰岩と同じ成分である。ところが、更に息を吹き込んでいると白濁が消える。石灰岩の地面が、二酸化炭素を含んだ雨水等によって溶食されて陥没して、ドリーネと呼ばれる「通り池」のような地形が出来るのと同じ原因である▼下地島は新生代第三期(千数百万年前)の島尻層を基盤として、その上を琉球石灰岩がおおっている。そこで形成されたカルスト地形で「通り池」は出来た。試験管の中の現象を通して、大自然の悠久の営みに思いを馳せることが出来たら素敵なことである▼「通り池」の景観上の特異性がまた様々な伝承を生んだ▼その昔、継母(ままはは)が継子(ままこ)を亡き者にしようと思って、実子と継子をこの池のそばで寝かし、夜中に継子を池に突き落とす。ところが、落とされたのは実子であった。岩がごつごつして痛くて眠れないという弟(実子)の訴えを聞いて、心優しい兄(継子)が寝る場所を交換してあったのである。悲嘆にくれた母親は我が子の名を呼びながら自らも池に身を投げたという▼印象深い話である。子供たちを民話の世界の魅力へ誘うだろう。「通り池」は島の大きな宝である。大事にしたい。

(2006/05/31掲載)

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