行雲流水

 藤原正彦氏の『国家の品格』やその他の著書が評判になっている。氏は国内外の大学で数学を教えているが、文化の各分野に造詣が深く、書く文章は明解である。読ませる文章であるし、色々な共感とともに疑問もわくので多くの人に読まれるのではないか▼取り上げている問題は多岐にわたるが、その中から二、三紹介してみたい。一つには「論理の限界」についてである。「論理」は大切であるが、それだけでは戦争もなくならないし、弱肉強食の経済社会もなくならない。情緒、たとえば他人の不幸に対する感受性があって論理ははじめて有効にはたらく、というものである▼その際、日本の自然や文化に育まれた「情緒」の優位性を説くが、理性が求める自由や平等、人権などの概念が果たしてきた歴史役割や現状の検証が重要ではないか▼「国語教育絶対論」というのがある。人はことばで、すなわち国語で思考するが情緒も培う。したがって特に小学校では国語の教育を最重要視すべきである。「祖国は国語だ」ともいう。国語こそがアイデンティティー(自己同一性)を担うものだということである▼ところでこの文章の中に気になるところがある。「言語を奪われた民族の運命は琉球やアイヌを見れば明らかである」。方言を皇民化のために蔑視したり弾圧したことは誤りであったが、もともと私たちは日本人であるから現在全県民が日本語を使っていることに、アイデンティティーの上で問題はないという意識が一般的ではないか▼共感することも多いが、批判的に読むことが大切である。

(2006/04/26掲載)

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