行雲流水

 三月二十一日は「春分の日」。自然をたたえ、生物をいつくしむ日である。この日、太陽は真東から出て真西へ沈む。また、昼と夜の長さがほぼ等しくなる▼この日をさかいに北半球は南半球より多くの太陽光線を受けるようになるので気温はさらに上昇する。草木の芽が萌えて、冬鳥たちは北の繁殖地へと帰っていった。「鳥雲に入りて草木の光かな」(蘭更)▼沖縄ではこの頃の季節を「うりずん」という美しいことばで呼ぶ。うり(潤う)とずん(浸みる、積もる)の複合語である。次に続くのが「若夏」(わかなつ)で、うりずんに芽吹いた草木がみどりを濃くしていく▼ところで、「みどり」は元来色名というより新芽・若芽をいう語であったが色名に転じたものと言われている。ミドリゴは生まれてまもない幼な子であり、藤村の「惜別の歌」にある「みどりの黒髪」は若々しい艶のある美しい黒髪である▼草木染の専門家たちは緑の意味を生命の内側から見つめている。緑はいたるところにあるが、どんな草木からも緑色は抽出できないという。志村ふくみ氏は書いている「緑は植物をとおしてこの世に受肉した色である」。結局、染織においても自然の草木でも緑は黄色と藍(青)の混合によって生み出される。多様なみどりができるゆえんである。緑はまた光合成を行う葉緑素の緑でもある▼すべては地球の自転軸が公転面と垂直でない幸運からおこる。そのことで多様な季節の変化が生まれ、生命が育まれた。太陽が天球上で春分点を通過するこの日は、存在の豊かな多様性を寿ぐのにふさわしい。

(2006/03/22掲載)

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