行雲流水

 大手総合病院の待合室。ほぼ満員の待合室には呼びだしのアナウンス以外会話もなく皆静かに順番を待っていた。数分後、うしろの席から幼児向けの物語りが聞こえてきた。周りを気にしているのか低く抑えた遠慮っぽい声である▼そっと振り返ると若い母親だった。うつむき加減で一歳前後の幼児に絵本を読み聞かせている。母親の膝にもたれていた幼児は絵本の絵≠ナはなく顔を上げてまばたき一つもせず母親の目を食い入るように見つめていた▼やがて名前を呼ばれた親子は小児科表示の診察室へと入っていった。母親の目をじっとのぞき込んでいた幼児。幼児の心をとらえていた心象風景は何だったろうかと想像してみた。母親がやさしく読み聞かせていた絵本の世界?違うと思った▼物語りの内容以上に幼児は母親の音声(肉声)の耳触りのよさに安心しきって心を開いていると結論づけた。同時に、癒しの子育てネットワーク『しあわせ子育て通信HP版』〜応援します。しあわせな子育てを取り戻すために!〜の中の一文を思い出していた▼「赤ちゃんや幼い子どもでも、親が真心をこめて語りかければ話がよく分かる、ということです。たとえ月齢の低い赤ちゃんでも…」(「子ども本来の姿・見せかけの姿」から抜粋)の文面である▼さらに、その昔ある国際機関が世界の児童対象に「世界で一番美しいものは」と募った回答の中、審査員全員がそろって選んだのは「お母さんの目」だったと伝えたトピック記事も思い出していた。

(2006/03/10掲載)

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