行雲流水

 わらび座のミュージカル「銀河鉄道の夜」(原作・宮沢賢治)が五日公演され、駆けつけた多くの市民を魅了した。その舞台で語られる幾つかの言葉が印象に残る▼ケンタウル祭の夜、貧しいジョバンニは友人のカムパネルラと銀河鉄道に乗り込んでいた。そこで二人は「本当の幸せ」を探求していくことを誓いあう。本当の神様論が展開される。「みんな自分の神様が本当の神様だと言うだろう、けれどもお互いほかの神様を信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう」。この言葉は賢治の「共生の思想」の表白と言える▼サザンクロスまで来ると、ジョバンニは天上へでもどこへでも行ける通行券を持っている。彼は言う「天上へなんて行かなくたっていいじゃないか。僕たちここで天上よりももっといいところをこさえなけぁいけないと僕の先生が言ったよ」。しかしこの時点でジョバンニは水死しており、天上へ行かざるをえない。彼は、「お母さんのいる現世こそ本当の天国なんだよ」と現世に戻るジョバンニを激励して消える▼旅の終わりに見るブラックホール(原作では石炭袋)は現世に生きる困難さを暗示する。しかし、ジョバンニは叫ぶ「僕はどんな闇だってこわくない。きっとみんなの本当の幸せをさがしに行く」。貧しい農民のため献身的に行動した賢治をほうふつさせる▼何よりも、華麗な装置や照明で作られる幻想的な舞台、美しい音楽と躍動する踊りがステージを感動的なものにした▼この公演成功のために尽力された関係者の努力を多としたい。

(2006/02/08掲載)

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