行雲流水

 NHKの番組「世界・わが心の旅」は各界で活躍している人々が、若いころ夢を育み、その後の生き方に強く影響を受けた土地の文化や人を後年再び訪ねたときのドキュメントである。C・D・ニコル氏は少年のときソーローの『森の生活』を読み、将来を方向づける。彼がその「森の生活」の跡を訪ねたときの記録が先日放映された▼ソーローは十九世紀のなかば故郷のコンコードに近い森のウォールデン池のほとりで小さな家を造って住み、土地を耕して、ほとんど自給自足の生活を送り、あらゆる虚飾を払拭した眼で自然と文明を見つめた。『森の生活』はその記録である▼一面で彼は行動派でもあった。親しく交友を続け、当時奴隷制を容認する政府に対しては納税拒否を行った。後のガンジーの「無抵抗の抵抗」運動に影響を与えたと言われている▼自然を愛し、簡素な生活と思索を行い、知識を実践化した彼の生き方に影響を受けたニコルは自然保護の活動に尽力してきた。彼はカナダの環境庁技官として活躍したし、エチオピアでは国立山岳公園を建設した。日本では自然破壊に警鐘を鳴らしてきた▼たとえば、著書の中で引用した次の言葉は私たちに示唆を与える「自然は多種多様なデザインで森を作った。一方で人は均一、単純なデザインで森を作る。自然がデザインしたのは、無限の時間の中で、さまざまな種が適応性に満ちて生き続ける」▼ニコルは「旅」の終わりで語った「ウォールデンは何処にでもある。あなたが住んでいる所にウォールデンはある」。

(2006/02/01掲載)

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