行雲流水

 小川未明の作品に『赤い蝋燭と人魚』というのがある。物語は次のように展開する▼女の人魚が自分の子供を陸で産みたいと思った。人間の住んでいる町は美しく、人間は人情に厚いと聞いていたからである。人魚が泳ぎついたのは小さな町で、お宮のある山の下に蝋燭を商っている店があった。その家には年寄りの夫婦が住んでいて、お爺さんは蝋燭を造って、お婆さんが店で売っていた▼ある日、お婆さんがお宮から降りてくると石段の下に赤ん坊が泣いていた。お婆さんは「これは神様のお授け下さった子だ」と家に連れて帰り、大事に育てた。大きくなった娘は、「こんな人間並でない自分を可愛がって育ててくれた」と、お礼にお爺さんの造った蝋燭に赤い絵具で美しい絵を描いた。不思議なことにこの蝋燭の燃えさしを身につけていると決して海で遭難することがなかった▼この話を聞いた香具師が年寄り夫婦に大金でその人魚(娘)を買いたいと申しでた。最初は断っていたが、ついには金に心を奪われて売ってしまう。娘は連れ出されるとき絵を描く余裕がなく蝋燭をみんな赤く塗りつぶしてしまう▼ある晩、髪の濡れた女がきて、その蝋燭を買っていく。その後、誰が上げたかお宮では赤い蝋燭が灯り、日々嵐になり災難が起こった。町は次第にさびれ、幾年もたたず亡びてしまう▼今、娘(人魚)を「平和や平穏な生活や豊かな自然」と置きかえてみる。「大切なものを見失うとき、ヒトは取り返しのきかないことをする」と辺野古沖でジュゴン(人魚)が囁いているとか。
 

(2006/1/25掲載)

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