行雲流水

 大人になるということは、どういうことだろうか。漠然としていて、案外難しい問いだが、色々な「言葉」が示唆を与えてくれる▼「ほかの誰にも代わってもらえない一人の自分に、君はなっていた。きみはほかの誰にもならなかった。そうと知ったとき、そのときだったんだ。そのとき、きみはもう、一人の子どもじゃなくて、一人のおとなになってたんだ」(長田弘)▼「他人のうちに自分と同じ美しさをみとめ/自分のなかに他人と同じみにくさをみとめ/出来あがったどんな権威にもしばられず/流れ動く多数の意見にもまどわされず/とらわれぬ子供の魂で/いまあるものを組み直し、つくりかえる/それこそが大人のはじまり」(谷川俊太郎)▼「自己チュー」という言葉を聞く。最近の若者に広くみられる自己中心的行動や考えからとった言葉である。他人が見えないから社会的な自覚が生まれない。去る選挙で、「無自覚層を如何に取り込むかという対策が講じられた」とする、問題が国会で論議された。そのようなことのターゲットにされる若者であってはなるまい▼精神科医の香山リカは書く。今の若者は仲間に対しては優しいが、それ以外の人に対しては全く優しくない。彼らの優しさは身近な人間以外への理解や共感には結びつかない。彼らが示す優しさを、如何に広い社会や他人に向けさせるかが課題となる▼各地区で成人式が催され、新成人への祝福と激励がなされた。不確かな未来ではあるが、自覚的に自己を確立することの誇りと挑戦する喜びが始まる。

(2006/1/11掲載)

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