行雲流水

 米国人の六人に一人は医療保険に入っていないが、貧困層に限ると加入しているのはほぼ半分にすぎない。制度が民間保険中心で、貧乏人はなかなか入れない事情がある。それに比べると、公的国民皆保険制度のもとに比較的安く治療を受けられる日本の制度は世界に誇り得るものである▼日本医師会の出している資料によると、世界保健機構(WHO)の発表する健康達成度の各国比較では、総合評価が日本は一位になっている。医療保険制度の成果によるところが大きいと言える▼ところが、この優れた医療保険制度の存続が危うくなってきた。サラリーマンの自己負担率が二割から三割になったのは記憶に新しいことだが、今度は高齢者の患者負担が増える。政府が決めた「医療制度改革大綱」によると、七十歳から七十四歳までの患者負担を一割から二割に引き上げ、食事全額と居住費を患者負担にするというものである▼さらには、人工透析等の高額医療費の患者負担増が論議されている。自動車保険に自賠責保険と任意保険があるように、万一に備えて公的医療保険のほかに民間の保険にも加入せざるを得ないことにもなりかねない。ここ数年、患者負担が増加する一方で、保険料の事業主負担が減少していることも日本医師会は指摘する▼確かに国の財政事情は厳しいが、国民が安心して医療を受けられる制度の維持は最優先されるべきである▼国民医療推進協議会・日本医師会が「国民皆保険制度を守る」署名運動を展開している現実を重く受けとめなければならない。

(2005/12/14掲載)

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