行雲流水

 戦争ということばを目や耳にするといつも鮮明に浮かんでくる事件がある。東京都内の高田馬場のマンションで五歳の幼児が突き落とされた事件である。加害者は十三歳(中学二年生)の少女だった▼少女は日本生まれで国籍も日本にあるが家庭の事情で一歳の時母親と二人で母親の出身地の東南アジアの国へ移り住む。そして成長し小学校に入学。しかし入学当初から泣きながら帰宅することが多くなった。顔や体にアザをつくって帰ってくることもしばしばあった▼母親が事情を尋ねても少女は一言も答えない。日本大使館を通して現地の関係機関が学校に事情を聞いたところ教師らが殴る蹴るの暴行を加えていた。理由は教師らの親族が先の戦争で日本人に痛めつけられたからだという▼少女は転校した。だが、そこでも同級生からいじめを受ける。報道によると少女の成績は抜群で現地語のみならず英語や中国語にもたけていたという。やがて少女の強い要望で帰国し都内の小学校五年生に転入。転入後間もなく少女の行動に異変が出始めた▼授業中教師から言動を注意されると突然わめいてパニック状態に陥ったり階段を下りている教師を後ろから突き飛ばしたりカッターナイフを持って追い回すなどの問題行動を繰り返した。以上はメディアが伝えた事件の内情である▼今なお東南アジアの人々の心に陰る日本への嫌悪感。因果のはざまにあるのは殺りくと人心破壊の元凶戦争≠ナある。過酷な幼児体験を重ねてきた少女が不憫でならない。

(200510/28掲載)

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